「すばる」(集英社)2021年2月号に、吉田修一『湖の女たち』の書評を寄稿しました。琵琶湖の近くの介護療養施設で起きた「百歳の老人」の殺人事件の謎に迫る作品です。老人がハルビンを拠点としていた元731部隊(関東軍防疫給水部本部)の課長の元京都大学教授だったことから、社会派のミステリー小説の色彩を帯びます。
ただ小説は従来の吉田修一作品と同様に読みやすい内容で、川端康成の『みずうみ』を想起させる危うい恋愛劇が面白く、惚れ込んだ女性のあとを付ける癖のある刑事・圭介と、その欲望に応える介護士・佳代のエロスとタナトスが交錯する反社会的で際どい描写に、強い読みごたえを感じます。タイトルは川端康成の『みずうみ』の一節を借りて「『悪魔ごっこ』が映し出す『魔界の湖』」としました。
「すばる」2月号は、文芸誌らしいコンテンツといえる「批評(クリティーク)」の賞が大々的に表紙を飾っているのが面白いと思いました。新型コロナ禍ということもあり、実利的な物事に関心が向かいがちな時代ですが、時間的な拡がりと、分野横断的な視野を持った批評を志す若い人が増えてほしいです。