酒井信/文芸批評・メディア文化論・社会思想 明治大学/ msakai@meiji.ac.jp/ 『松本清張はよみがえる』『現代文学風土記』
2024/03/18
佐藤正午『冬に子供が生まれる』書評/北海道新聞
2024/02/18
共同利用・共同研究拠点「問題複合体を対象とするデジタルアース」 2023年度・成果報告会
2024年3月5日に共同利用・共同研究拠点「問題複合体を対象とするデジタルアース」(中部大学)の成果報告会でオンライン発表を行います。年に一度の情報系・理工系の先生方との研究報告会です。表題は「新型コロナウイルスによる欧州のメディア報道の比較分析と地理空間上の分布に関する研究」です。今年度の発表内容は、下で公開されている2021年度の報告書の内容を、時間軸と解析・分析のデータサンプル数を拡げ、国際比較した内容です。
http://gis.chubu.ac.jp/wp_data/wp-content/uploads/2023/04/202103.pdf
今年は解析結果のグラフだけではなく、EsriのArkGIS上で地理空間上の分布もマップとして出力します。久しぶりにArkGISを使いましたが、以前のバージョンよりグラフィックが向上していて、操作感も良かったです。本研究は新聞記事データベースの利用規約に準拠し、人手でメタデータを作成した上で、メタデータに対して解析を加えています。
この研究は慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所(現・グローバルリサーチインスティチュート)で共同通信社外信部などと共同研究していた頃からの知見の蓄積の上で、英字ニュース及び日本語のニュースを時系列に即して解析・分析した内容です。任期付きの助教時代は苦労もありましたが、三田の東館と汐留の共同通信とSFCのゼータ館の3か所に研究室があり、学際的なプロジェクトを通して色々な経験ができたのが良かったです。Europe Media Monitorを開発・運営していたEuropean CommissionのJoint Research Centre@Ispraに行けなかったのが、少しだけ心残り。Europe Media Monitorは、ローカルニュースのアグリゲーションサイトの先駆けでした。
この研究を通して、初年度のゼミ生にメタデータの作成をアルバイトとして手伝ってもらい、希望する大学院に進学できたので良かったと思います。人が育つのが一番。
中部大学国際GISセンター
2024/01/28
與那覇潤著『危機のいま古典を読む』書評/産経新聞
産経新聞朝刊(2024年1月28日)に與那覇潤著『危機のいま古典を読む』(而立書房)の書評を寄稿しました。表題は「コロナ禍の時代批評」です。昨年末にご恵贈頂いていて、2022年に亡くなった中井久夫の批評から始まっている点に関心を持っていた所、年明けに書評の依頼を頂きました。文化部の担当記者からも好評でした。
近年、與那覇さんや斎藤環さんが中井久夫を再評価されているのが、学部時代に臨床心理学や文化人類学を学んでいた身として嬉しいです。『いじめの政治学』や『災害と日本人』なども含めて、人類学的な広い視野の下で、臨床医として心身のメカニズムを探求した文章に、敬意を抱いています。人類は相応に狩猟採取の時代が長く、微かな兆候に過剰な意味を見出す「微分的な認知」のあり方を、誰しもが多かれ少なかれ引き摺っているのだと。
その他、與那覇さんの本では、松本清張の『実感的人生論』や中野重治の「吉野さん」、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』について論じた箇所についても、何か書けそうな感じがしましたが、新聞書評の文字数でしたので、最初と最後の文章にのみ言及しました。『松本清張はよみがえる』の次の本の準備(1年ぐらいの予定、戦後日本のメディア史関連)に取り組んでいることもあり、前にアステイオンに寄稿した『平成史』の書評も含めて、書きながら学ぶことが多かったです。
『危機のいま古典をよむ』與那覇潤著 コロナ禍の時代批評 評・酒井信(明治大准教授)
https://www.sankei.com/article/20240128-F7S7AX2OWFLRLM5P44JCMI7QMA/
WEBアステイオン(Newsweek日本版)
氷河期世代が振り返る平成──「喪の作業」としての平成文明論
https://www.newsweekjapan.jp/asteion/2022/08/post-71.php
*******
今年のSuper Bowlは、Kansas City ChiefsとSan Francisco 49ersの対戦@Las Vegasです。QBは昨年、左足を引き摺りながらSBに勝ったMahomes (過去5年で4回目)と、Iowa州立大出身で、ドラフト最下位指名ながら、2年目、24歳でSB出場を果たしたBrock Purdy。新しい時代の到来を感じさせる、近年のSBで最も楽しみな試合です。データではMahomes-Chiefsが有利ですが、Purdy-49ersは毎日成長する育ち盛りの子供みたいな感じ。
49ers and Chiefs Super Bowl Rematch in Las Vegas Hype Video
https://www.youtube.com/watch?v=6IJy8Uma3uQ
San Francisco 49ers vs. Kansas City Chiefs | 2023 Super Bowl Game Preview
https://www.youtube.com/watch?v=kLDTSj6GRvA&t=171s
Purdyは高校生のような外見ながら、高い判断力と強いメンタルで、昨年の終盤にチャンスをつかみ、次々とリーグを代表するQBを圧倒して記録的な連勝。今年49ersは24歳のPurdy中心にチームを再編成して、リーグトップの戦績でプレイオフへ。NFC championshipでも、前半で大差を付けられますが、Purdyはベンチでニコニコしながら、チームメイトの力を引き出して大逆転。メディアもファンも驚きが収まっていない状況です。時給5ドル50セントのスーパーマーケットの店員からSBに出たKurt Warnerと似たタイプですが、何しろ若いし、謙虚で冷静。Mahomesに勝つと、一気に2020年代のアメリカの顔になりそう。49ersはTight EndのKittleや「世界で最も有名なクリスチャン」、Christian McCaffreyをはじめ他の選手の調子も良く、Upsetもありそう。
The story behind Brock Purdy and the most relevant Mr. Irrelevant | NFL on ESPN
https://www.youtube.com/watch?v=a5eByg1qBAs&t=10s
ただMahomes-ChiefsはDynastyと呼ばれている通り、ちょと前にDynastyと呼ばれたTom Brady-Patriotsと同じくチームとして完成度が高いです。NFLはサラリーキャップ制なので、いい選手はどんどん流出するのですが、Mahomes-Chiefsは選手が入れ替わってもGovernanceに安定感があります。昨年からTight EndのTravis KelceがTaylor Swiftと交際中なのも話題。昨年KelceはSaturday Night Liveでもホストを務め、ホワイトハウスでもBiden大統領と絡んで、絶好調。Mahomesと共に、Kansas Cityの価値を高めています。
Chiefs, Patrick Mahomes, Travis Kelce present President Biden with jersey at the White House
https://www.youtube.com/watch?v=zmPYBKgBei4
Mahomes-Kelce-SwiftのホットラインはSBでも熱そうです。ハーフタイムショーのUsherよりも、客席のTaylor Swiftを観たいファンが多そう。Swiftと一緒に映ることの多いKelceの母は、兄のJason Kelceも一流のNFL選手に育てた、アメリカでも有名なBig Mamaの一人(Swiftは母Kelceより背が高い)。
Taylor Swift is a regular at the Chiefs and Travis Kelce games!
https://www.youtube.com/watch?v=0o1tgjwnjFY
KelceとKittle、両チームのTight Endが注目されるSuper Bowlですが、TEが活躍する現代文学と言えば、ジョン・アーヴィングの名作『ガープの世界』です。アーヴィングは、49ersのKittleと同じアイオワ大の出身で、同大で無名時代のカート・ヴォネガット・ジュニアに指導を受けています(素晴らしい師弟関係)。ジョージ・ロイ・ヒルの映画版「ガープの世界」では、LGBTQの元プロTEのロベルタを、ジョン・リスゴーが見事に演じています(要所で炸裂するロベルタのTEらしいタックルが映画版の見どころ)。ロビン・ウィリアムズも良いです。
The World According to Garp - Original Theatrical Trailer
https://www.youtube.com/watch?v=VmRPh1xwab8
*******
期末レポートの採点を終えました。提出率も高く、いい内容が多かったです。特に『現代文学風土記』を参考に、全国各地を舞台にした現代小説から好きな作品を選び、自由な論点で分析するレポートに学生の個性が出ていて面白かったです。東野圭吾さんや湊かなえさん、吉田修一さんや桜木紫乃さんの小説が人気で、現代小説への関心は高いと感じました。
2024/01/16
第170回直木賞対談
西日本新聞朝刊(2024年1月16日)に、第170回直木賞について、書評家の西田藍さんと対談した記事が掲載されました。前回は、2作の予想が的中という結果でした。この連載も4年目に入りました。
今回は村木嵐さんの『まいまいつぶろ』と嶋津輝さんの『襷がけの二人』を、受賞作に相応しいと予想しています。古典芸能・文学の復興には、質の高い時代小説・歴史小説の流行が不可欠だと、個人的には考えていますが、近年、気鋭の中堅作家による時代小説・歴史小説の復興の兆しが感じられます。
今回私が推した2作品についての対談用のメモは下記です(対談の内容とは異なります)。今回も力のある候補作が多く、読み応えがありました。
対談で推した著者以外でも、河﨑秋子さんの作品は前の候補作よりも道東の風土を深掘りした迫力ある「熊物」だったと思います。宮内悠介さんは「文体」が魅力的で、様々なジャンルの小説を書くことができる実力ある作家だと思いました。加藤シゲアキさんは、格段に小説を書く力量が高まっており、同じく青山学院大学を卒業し、ニューオータニに勤務した後、推理作家に転じた森村誠一(2023年没)のように、異業種出身の作家らしい大胆な切り口から、今後も推理小説を書いてほしいです。
西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1167980/
Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/65edc8d65730ab091dcf3bd2d8517edb81201cc9
書籍版の『松本清張はよみがえる』は、もうすぐ印刷所に入りますので、書影などの情報が公開されると思います。奥付の記載は2024年3月1日の発行です。
>>
村木嵐『まいまいつぶろ』
・話し声が周囲に理解されず、顔面麻痺があり、半身不随で筆談も出来ないが、聡明だったとされる徳川家重と、その「通詞」大岡忠光の二人三脚の人生を描く。
・大御所・徳川吉宗の改革と、それを引き継いだ家重の治世を、忠光の存在に光を当てながら描いた筆力が光る。吉宗―家重―家治の徳川8~10代の時代は、重農主義から重商主義への過渡期で、歴史小説の題材として面白い。
・障害や外見に対する差別を受ける中で、他人の人格や才能を見る目を養い、的確に人を抜擢し、家臣の才能を開花させ、自らの才能も開花させた将軍・家重の現代的な価値の大きさが伝わってくる。
・誹謗中傷を受け、差別されながら、権謀術数が渦巻く江戸城の政治を生き抜き、確かな実績を残した家重と忠光の人生に、現代でも励まされる人は多いと思う。
・「まいまいつぶろ」のようにのろのろとしているが、大きな殻=「百姓たちの、言葉の通じぬ苦」を取り除くような、家重らしい弱い立場の人々への視線が生きた政治を描いた作品と言える。
・大奥の世継ぎをめぐる争いや、酒井忠音・忠寄、田沼意次など世代交代していく老中たちの政治をめぐる描写も面白い。
・老中にも嫌疑が掛かる「郡上藩の再吟味」の描写など、一つ一つの場面に幕政をめぐるドラマがあり、「将軍の政とは、人の才を引き出し、その者に存分の働きをさせることでございます。全軍を統御なさるがゆえに、眼前の政に関わられてはならぬのでございます」など、現代にも通じる「政治学」が感じられる。
・司馬遼太郎の影響を見出すなら、司馬が『国盗り物語』で、頭脳明晰で行動力のある斎藤道山に戦国時代のエッセンスを見出したような、歴史上の人物を描く切り口の鋭さだと言える。
・前回に直木賞を獲得した永井紗耶子さんの『木挽町のあだ討ち』など、近年、女性作家が描く歴史小説・時代小説に、英雄豪傑が切り開いた歴史の影に迫った秀作が多い。
嶋津輝『襷がけの二人』
・戦前戦後の困難な時代を、女中の仕事に就きながら生きた女性二人の人生を、フロイトの言う意味での性的な欲動≒他者との関係のあり方に関わる欲望を通して描いた作品。
・名家ではあるが、炊事を中心とした家事や夫婦の性生活の具体的な描写を通して、時代を肉付けしている点が面白く、長子相続などが無くなった現代とはやや異なる「家」のあり方からズレる女性の感情を、上手く捉えている。
・平凡と自認する女学校出の千代の、平凡とは言えない名家の妻としての人生とその居心地の悪さを、芸者として苦労した過去を持つ、年長者のお初の繊細な配慮を通して浮き彫りにしている点も巧み。千代とお初のコントラストが物語の中で映える。
・一般に小説は文体が大事だとされるが、大衆小説においては文章の技巧よりも語り口が大事だと思う。本作の語り口は軽やかでありながら、人の死が身近な時代の女性の生と性を、奥行きを持って描いている。
・女性からも男性からも疎外されてしまう、不器用な千代とお初の共生を描く。お初の語りを通して、女中や芸者の仕事を美化することなく、卑猥な花電車の芸を期待されたり、身請けされることへの不安を浮き彫りにしている。
・フィリピンから帰還し、精神疾患を有し、家族と離れて働く秋山と千代の不器用な性愛について、秋山の死後に醜聞を広められるなど、両義性を持ったエピソードが良い。
・『窓際のトットちゃん』の映画化の影響もあり、女性の視点から戦前戦後の日常を描いた作品に関心が向きやすい状況が、追い風と言えるかも。
*******
新年の能登半島地震(M7.6)について、被害の大きさに心が痛みます。モーメント・マグニチュードで阪神淡路大震災や熊本地震の約9倍という推定もあり、昨年5月にもM6.5の地震が起きていることを考えると、先行きが心配です。
松本清張の『ゼロの焦点』の批評を書く上で、映画版のロケ地を中心に能登半島を回り、七尾の西村賢太の墓を訪ねたり、能登金剛や真脇遺跡、西田幾多郎の哲学館に立ち寄っていました。清張作品や宮本輝の作品で言及される能登半島の漁業や窯業についても調べて、土や地層に着目したブラタモリの輪島塗の回も、興味を持って観ていました(輪島塗の漆器が、輪島の地で作られるからこそ高品質になる理由がよく分かりました)。
先々は学生とボランティアに行きたいと考えていますが、先ずは次年度の共同利用・共同拠点の研究で、今回の震災報道の質・量、時空間の分布を、東日本大震災の分析結果と比較しながら、メタデータを作成して解析・分析したいと考えています。自宅の食器も輪島塗のものに順次買い替えていきたいと思います。
*******
年明けからJapan Studies Associationの発表で久しぶりにハワイに滞在していました。日本学の国際学会は、文化研究を中心として、まだまだ関心が高いという印象でした。
学会参加者向けにコミュニティ・カレッジで、ハワイの日系移民が伝えた料理の講習会があったのも良かったです。娘がマグロ丼が好きなので、AHI POKEのレシピに関心を持ちました。私の故郷の長崎は本マグロの養殖が盛んで、漁獲量が日本一ですが、食べる人は少なく、マグロは県外輸出・外貨獲得が基本で、鉄火巻もヒラマサ(白身)です。私もあまりマグロを食べませんが、AHI POKEは美味しかったです(個人的には、ダイナマイト、キムチ、メキシカンなどスパイシー系のAHI POKEが好みでした)。金子信雄に学んだ調理技術で、AHI POKEを食生活に取り入れたいと思います。
日系シェフのレクチャー&試食で最も印象に残ったのは、広島からの移民がハワイに伝えたとされるChicken Hekka(≒鳥のすき焼き)でした。広島の方言で鋤をヘカと言うらしく、当初貧しかった日系移民は、牛肉を鶏肉で代用してすき焼き風の料理を作ったのだとか。ダニエル・イノウエが広島と福岡の日系二世ですが、彼もこの素朴な味わいのHekkaを食べて、片腕を失ったハンデを乗り越えたのだろうなあ、と日系移民の歴史に思いを馳せてしまう、昔ながらの日本料理の味付けでした。
2023/12/25
書籍版『松本清張はよみがえる』2024年2月~3月に刊行予定
書籍版『松本清張はよみがえる』(西日本新聞社)の校正作業が2稿まで終わりました。新聞連載の原稿を加筆修正し、1.8倍ぐらいの分量で50の清張作品について論じています。イラストや地図も入り、過去の松本清張関連の本と異なる視点から、文芸批評とメディア史研究の間で、企図したテーマや方法を展開できた感じがします。2024年の1月中旬に印刷所に原稿が入り、2月下旬から3月にかけて、オンラインも含めた書店に配送されるスケジュールです。
ジャーナリズム研究やメディア文化論に関する科目を主要科目とする教員として、この2年で西日本新聞社から単著2冊を出版でき、良い成果になったと感じています。九州北部を中心として地域性があるのも好みです。連載を含めて新聞・雑誌・Web掲載の原稿もここ4年で160本ほど。
2024年は新たな気持ちで、次の書籍や企画に向けた準備を進めて行きたいと思います。次月の国際学会の発表や直木賞対談の準備もあり、12月も(膝と肩のリハビリに時間を費やしつつも)ほぼ休みなく仕事していました。年末年始はゆっくり過ごします。
下の写真は地図のページのゲラの一部と、昨年の今頃に書いていた『北の詩人』の回の書籍版のゲラです。吉田ヂロウさんのイラストではこの回の林和(イム・ファ)のものが最も好みです。
2023/12/06
吉田敏浩『昭和史からの警鐘 松本清張と半藤一利が残したメッセージ』書評/週刊読書人
週刊読書人に吉田敏浩『昭和史からの警鐘 松本清張と半藤一利が残したメッセージ』の書評を寄稿しました。担当の編集者からも好評でした。著者の吉田さんは明大文学部(と探検部)のご出身だそうです。
松本清張が『現代官僚論3』の「防衛官僚論」(全集未収録)で展開した「三矢研究」を軸とした内容で、私は1971年の清張の講演録「世事と憲法」と半藤一利の『昭和史 1926―1945』を引きながら論じました。松本清張のノンフィクション系の仕事は、「観測気球」を上げながら世に埋もれた情報を集め、草の根レベルで国家と向き合うジャーナリスティックな姿勢が顕著で、良いです。
核保有国の中国が日本の4.5倍の軍事費(2023年)を有している状況ですので、防衛費をGDP比2%に増やす政府方針については(明大法学部出身の三木武夫が、閣議決定でGDP比1%枠を定め、長年それをおおよそ守って来た歴史もあり)、私は「右から左」に受け流してほしいと考えています。「思いやり予算」も、「赤旗」によると、色々込みで8376億円(2023年)だとか。国連への分担金(2.4億ドル+PKO分担金5.2億ドル)を増やすなど、国際貢献が明確で、無理のない金額なら理解できるのですが。
日本の平均年齢はすでに50歳に近く、高齢化率で世界一(2022年)、出生数も年80万人を割り込み、イノベーションも出遅れ、国際化も進展しない中で、2027年にNATO基準で12兆円超えの実質的な軍事増税というのはさすがに。。「パナマ文書」が示した富裕層や多国籍企業への国際課税、人口減と技術革新に見合った行政のスリム化、在留資格や定住者・永住者の要件の緩和など、他の政策で「大胆な改革」を期待しています。
それはさておき、書評の書き出しは下です。
>>
早稲田大学に在籍していた1990年代末、浅田彰など左派の知識人の講演会で質疑を行うと、高い頻度で「革マル派」の人から勧誘を受けた。今の大学には良くも悪くも「政治の臭い」が薄い。転機となったのは、2001年の米国同時多発テロだったと思う。テロ対策の名の下で、国防・治安の強化や個人情報の収集が当たり前のものとなり、政治が「マイノリティの排除」と紙一重の危うさを孕むようになった。この点について吉田敏浩は、本書で次のように述べている。「アメリカの対中国封じ込め戦略と軍事費倍増の要求に従って、日米同盟という軍事同盟の強化と、専守防衛の枠を踏み越える大軍拡を進めたら、東アジアでの果てしない軍拡競争と対立の激化を招く」「国家機関の国民・市民に対する監視・情報収集は、プライバシーの侵害であるうえに、個々人の「意思表示、意見表明」を萎縮させ、言論表現の自由や集会結社の自由などを侵害する」と。正論であろう。<続く>
https://jinnet.dokushojin.com/products/3518-2023_12_01
*******
今学期のゲスト講師は、昨年に続き、批評家の宇野常寛さんにお越し頂きました。「松本清張はよみがえる」の連載で、高度経済成長以後の日本のメディア史について考えることが多かったので、今回は宇野さんにメディアでの執筆・運営経験を踏まえつつ、批評メディアの現在と将来についてお話を頂きました。出版不況の時代を新しいことにチャレンジしながら潜り抜けてきた同世代の宇野さんらしい貴重なお話で、参加した学生と共に楽しい時間を過ごすことができました。
年内はこの書評で掲載は終わりで、先月は文芸関連の裏方の仕事と、電通からの依頼で某社の海外CMに関係する英語レクなど。年明けは、直木賞予想対談と、科研の国際学会発表、その間に書籍版の『松本清張はよみがえる』の作業という感じです。年始に骨折した膝のリハビリを継続しつつ、無理のない仕事量で年末を迎えています。
*******
愛嬌と俊足と宮沢賢治の暗唱が取り柄で、宿題をしない息子が、公園で滑って眉間を割り、5針を縫う怪我で「旗本退屈男」のような傷にならなかったのが不幸中の幸いでした。眼を怪我しなかったことを天啓と思い、任天堂switchとYouTubeに一日の大半を費やす人生を改め、さかなクンに憧れ、海洋生物学者を志した幼年時代を思い出してほしいです。魚の淡水養殖の研究に励み、食料問題、環境問題、国連改革などに貢献してほしいです(まだ小1ですが)。
2023/11/23
NCAA College Football
2023/10/29
福田和也著『放蕩の果て 自叙伝的批評集』書評/産経新聞
産経新聞朝刊(2023年10月29日)に福田和也著『放蕩の果て 自叙伝的批評集』(草思社)の書評を寄稿しました。表題は「俗情の底で輝く『生』」です。3度救急搬送されながら、『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』(河出書房新社)を書き上げ、この本が注目を集めた直後に、400頁を越える「自伝的批評書」を出してみせる、福田和也先生の「プロの批評家らしい矜持」へ敬意を込めました。10日ほど前に書いた原稿ですが、それ以前から書いていたような思いがします。
この本は2010年代後半の「新潮」掲載の批評文を中心に据えた、良書です。すべて初出時に読んでいましたが、改めて読み直し、福田先生の文章を毎月、毎週、雑誌で読んでいた院生~若手教員時代を思い出しました。福田先生の本について論じるのは、「文芸批評」の方法論上、工夫を要するので骨が折れますが、毎回、これで最後という気持ちで書いています。
福田和也著『放蕩の果て 自叙伝的批評集』書評/産経新聞
https://www.sankei.com/article/20231029-GVOYPZDBAVK3XBTHLU63ICG56M/
前作と前々作の書評
福田和也著『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』書評/「日常を文化とする心」
https://www.sankei.com/article/20230604-UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU/
『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』書評/「奇妙な廃墟に聳える邪宗門」
https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/945463/
*******
ゲンロンの司馬遼太郎鼎談のダイジェスト版の映像を作成いただきました。下のリンクで観れます。教養豊かなお二方と踏み込んだお話しができて、楽しい会でした。
福間良明×酒井信×與那覇潤「司馬遼太郎はいかに国民作家になったのか──生誕100年で考える戦後日本の歴史観」(2023/8/30収録)ダイジェスト
https://www.youtube.com/watch?v=T2xym5JQdQs
改めて映像を観ると、與那覇さんからもご関心を頂いた橋川文三の『日本浪漫派批判序説』に言及したあたりで、都市から「郷土」を想像した日本浪漫派と、その対比から農本主義を再評価した橋川の思想を手掛かりに、司馬遼太郎の『街道をゆく』を分析すると、自分なりの司馬論が展開できそうな感じがしました。先々、司馬についても書いてみたいと思います。
書籍版の『松本清張はよみがえる』(西日本新聞社、2024年初頭に刊行予定)は、現在、レイアウトが決まり、校正の作業が進行しているところです。
2023/08/29
ゲンロン 司馬遼太郎はいかに国民作家になったのか ──生誕100年で考える戦後日本の歴史観
ゲンロンカフェで2023年8月30日19時より、立命館大学の福間良明先生と評論家の與那覇潤さんとトークイベントを行いました。表題は「司馬遼太郎はいかに国民作家になったのか ──生誕100年で考える戦後日本の歴史観」です。下のリンクで冒頭部分を視聴できます。
福間良明×酒井信×與那覇潤「司馬遼太郎はいかに国民作家になったのか──生誕100年で考える戦後日本の歴史観」 #ゲンロン230830
https://www.youtube.com/watch?v=JfwrWwaYHmY&t=243s
https://www.youtube.com/watch?v=T2xym5JQdQs
與那覇さんの司会で、鋭いコメントを頂きながら、福間良明先生と共に、5時間半の時間をかけて充実した「司馬遼太郎論」を展開できたことを嬉しく感じています。ゲンロンの壁にはサインと一緒に、明治大学OBで、日本のプロレスの国際化に貢献したマサ斎藤の座右の銘「Go for Broke(当たって砕けろ)」を記しました。
イベントでは福間先生の『司馬遼太郎の時代 歴史と大衆教養主義』(中公新書)の内容を踏まえて議論をしつつ、私からの話題提供として以下の点をお話しました。
1 司馬遼太郎と松本清張の国民作家としての比較
2 直木賞候補作を中心に、現代の時代小説・歴史小説の状況を踏まえ、司馬遼太郎作品の現代的な価値について
3 現在の国内外の社会情勢を踏まえ、歴史小説を読む意味について
思えば、中学~高校にかけて歴史小説が好きだったこともあり、司馬遼太郎の代表作を刊行順に読みましたが、『戦艦武蔵』や『関東大震災』、『零式戦闘機』や『長英逃亡』などを記した吉村昭と比べると、その後、原稿の仕事で読み返すことはありませんでした。「夏休みの宿題」を頂いた気持ちで、当日の議論を楽しみに、準備に努めました。
PPTの終盤で、ゲンロンの場への敬意を込めつつ、東浩紀さんの『観光客の哲学』や『ゲンロン戦記』の内容を踏まえた、歴史小説と観光、メディアに関する話もしました。非常に楽しい時間を過ごさせて頂き、登壇者のみなさま、ゲンロン・シラスでご参加を頂いた皆さまに感謝申し上げます。
ゲンロンHP
2023/08/14
世界文化遺産登録5周年記念「潜伏キリシタンをめぐる藝術祭」
長崎県の文化振興・世界遺産課の主催で、2023年9月9日(土)に永田町の全国町村会館ホールにて「潜伏キリシタンをめぐる藝術祭」が開催されました。長崎県の職員の方によると、対面で約150人、オンラインを入れて340人ほどの参加者ということで、大盛況でした。
私は昨年、九州芸術祭(長崎県の後援)で青来有一さんと対談を行なった経緯でお声がけを頂き、【文学×歴史】トークセッション「世界文化遺産の旅 潜伏キリシタンをめぐる長崎と天草の風土と文学」を担当しました。探検の部分で講演をされていた高橋大輔さんは、クレイジージャーニーなどに出演されている冒険家ですが、明治大学政治経済学部のOBだそうで、「植村直己(農学部OB)の影響がありましたか?」と聞いたところ、「明治には探検の伝統があるんです」という力強いご回答でした。
世界文化遺産に登録された構成資産について、長崎で生まれ育った視点から紹介しつつ、遠藤周作の生誕100年ということもあり、代表作『沈黙』に重点を置いた話をしました。迫害による棄教を神は許すのかどうか。また司馬遼太郎の生誕100年でもあるので、『街道をゆく17 島原・天草の諸道』などの島原の乱、潜伏キリシタンをめぐる言説についても触れました。
長崎の下町で生まれ育つとカトリック教会は身近な場所で、私の場合は幼稚園が修道会(都市部のミッション系の学校とは異なって、信仰に根差した慎ましい暮らしの延長にある場所)で、小学生の頃も修道院のシスターがボランティアで担当していた、英語などの学習会に参加して、カトリック関連の、古い子供向けの本をよく読んでいました。クリスチャンが多い「国境の街」で生まれ育った経緯から、遠藤周作や井上ひさしには、親近感を抱いてしまいます。
私の担当セッションでは、拙著『現代文学風土記』で取り上げた青来有一さんの『人間のしわざ』(島原を舞台)『聖水』(潜伏キリシタンを題材)、中村文則さんの『逃亡者』(大浦天主堂を舞台)、村田喜代子さんの『飛族』(離島の隠れキリシタン信仰を描く)について述べました。
東京藝術大学の古楽科の方々による天正遣欧使節(長崎空港の入り口には、彼らの像が置かれています)の音楽も素晴らしく、全体を通して良い回でした。
世界文化遺産登録5周年記念特別イベント「潜伏キリシタンをめぐる藝術祭」の開催【オンライン同時配信】
長崎県
https://www.pref.nagasaki.jp/object/kenkaranooshirase/oshirase/623506.html
共同通信PRWire
https://kyodonewsprwire.jp/release/202308097929
文学通信
https://bungaku-report.com/blog/2023/08/559913301550.html
九州芸術祭文学カフェin長崎 2022年10月1日(土)開催(@長崎県美術館)「風土から現代日本文学を読む」(青来有一さんとの対談)
https://makotsky.blogspot.com/2022/08/in.html
*******
久しぶりに長崎・外海の遠藤周作文学館に行き、生誕100年の展示をじっくり見学しました。出津教会の教会守の方からも詳しい案内を頂けて、良い時間でした。遠藤周作が描く「長崎」は、潜伏キリシタンが多く住んでいた北西の地域(旧西彼杵郡の外海町)に伸びている点が特徴的です。長崎の市街地から30キロ近い距離があります。平成の市町合併で、外海町が「長崎市」に編入されたことを改めて実感しました。
これは佐藤正午が描く「西海市」が、平成の合併でできた西海市や、村上龍が描く「佐世保」と異なるのと似ています。昨年、青来有一さんとの対談でも触れましたが、地名に付随するイメージは作家によって大きく異なり、現実の地理空間とズレます。カズオ・イシグロが描く「長崎」や「上海」も同様です。
例えば青来さんが描く「長崎」は、カトリック教徒が多く住む爆心地近くの浦上地区を中心とした「長崎」で、お会いしてお話する時にも感じますが、吉田修一さんが描く「長崎」の市街地から数キロ北にズレている印象を受けます(昨年の対談では、「長崎」に付随する長崎港・大村湾・外海・有明海の「海のイメージの差異」が重要という話になりました)。このあたりの詳細やマーティン・スコセッシの映画版についても「潜伏キリシタンをめぐる藝術祭」で触れる予定です。
映画『沈黙-サイレンス-』本予告