西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」の第12回(2018年6月17日)は、谷崎潤一郎賞と伊藤整文学賞を同時受賞した青来有一の代表作『爆心』について論じています。表題は「爆心地の普通の日々描く」です。
現在、先々の仕事のフィールドワークでUtah州の Salt Lake Cityに滞在していますが、「現代ブンガク風土記」は平常運転で続きます。
タイトルは「原爆文学」を想起させる重々しいものですが、ユーモラスで軽やかな筆致で書かれた作品で、爆心地で生活してきた人々に、ごく普通の青春があったことを物語っています。
例えば「石」では作業所で「ちゃんぽんセット」の箱折をしている「修ちゃん」が、入院している母親に「いっしょに神さまのところに行こうか」と心中を仄めかされて、同級生の政治家「九ちゃん」に相談に行く姿が描かれています。
「虫」では被爆した女性が、青春時代を回顧しながら、健康的な「憧れの佐々木さん」との一晩の情事について回想しながら、佐々木さんと結婚した同じ職場の女性に、歳をとっても嫉妬をし続ける姿が描かれています。
何れの作品も、被爆者を聖人のように描く従来の「原爆文学」と比べると、際どい表現に満ちていますが、読みやすく、面白い小説です。
爆心地の日常の中で、キリスト教徒の多い浦上地区に原爆が落とされたことを問いかける描写にも深みがあります。例えば「蜜」に登場する老人は「あの時に、主はこの空にいなかったのだろうな」、「主は人が愚かしい真似をしようとする時、ブレーキを踏んでくれるはずなんだが」と振り返っていますが、こういう書き方そのものが新鮮です。
手にとって読んでもらえれば、こういう小説を、現職の長崎原爆資料館の館長が記していることに、「原爆文学」の「現代文学らしい深化」を感じることができると思います。
現在、先々の仕事のフィールドワークでUtah州の Salt Lake Cityに滞在していますが、「現代ブンガク風土記」は平常運転で続きます。
タイトルは「原爆文学」を想起させる重々しいものですが、ユーモラスで軽やかな筆致で書かれた作品で、爆心地で生活してきた人々に、ごく普通の青春があったことを物語っています。
例えば「石」では作業所で「ちゃんぽんセット」の箱折をしている「修ちゃん」が、入院している母親に「いっしょに神さまのところに行こうか」と心中を仄めかされて、同級生の政治家「九ちゃん」に相談に行く姿が描かれています。
「虫」では被爆した女性が、青春時代を回顧しながら、健康的な「憧れの佐々木さん」との一晩の情事について回想しながら、佐々木さんと結婚した同じ職場の女性に、歳をとっても嫉妬をし続ける姿が描かれています。
何れの作品も、被爆者を聖人のように描く従来の「原爆文学」と比べると、際どい表現に満ちていますが、読みやすく、面白い小説です。
爆心地の日常の中で、キリスト教徒の多い浦上地区に原爆が落とされたことを問いかける描写にも深みがあります。例えば「蜜」に登場する老人は「あの時に、主はこの空にいなかったのだろうな」、「主は人が愚かしい真似をしようとする時、ブレーキを踏んでくれるはずなんだが」と振り返っていますが、こういう書き方そのものが新鮮です。
手にとって読んでもらえれば、こういう小説を、現職の長崎原爆資料館の館長が記していることに、「原爆文学」の「現代文学らしい深化」を感じることができると思います。