2019/02/17

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第46回 佐藤正午『鳩の撃退法』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第46回 2019年2月17日)は、佐藤正午の代表作『鳩の撃退法』について論じています。表題は「ぼんやり留まる場所として」です。

日本西端の港街・佐世保の雰囲気が、色濃く漂ってくる現代文学を代表する小説です。夜店公園通りという佐世保に実在する歓楽街も作中に登場します。2019年の1月に佐世保に行って写真も撮ってきました。高校の部活の遠征以来、久しぶりに佐世保の繁華街を歩きましたよ。

この小説は凄い小説です。主人公の津田伸一は、かつて直木賞を「2年連続」で受賞した大作家でしたが、小説が書けなくなり、世間から忘れられています。佐世保っぽい街で、女性の家に居候しながら「女優倶楽部」という店でドライバーをしながら日銭を稼いでいます。そこに古本屋の店主から3000万円のお金と、偽札の疑惑がふってくるというぶっ飛んだ話です。

50代後半から60代にかけて、代表作と呼べる作品を世に送り出すことのできる作家は稀だと思います。佐藤正午は2017年に発表した「月の満ち欠け」で、61歳にして直木賞の初候補で初受賞となりましたが、この受賞を後押ししたのが、山田風太郎賞を受賞した、文庫で約1100頁の本作であることは間違いありません。

佐藤正午の佐世保を舞台とした作品の魅力は、東京や福岡のような大都市とは異なる生活者の現実感にあると思います。直木賞の受賞の記者会見も電話対応で、授賞式にも出席すると言っておきながら、結局、出席せず、30年以上も佐世保に留まりながらマイペースで作品を記し続けてきた作家らしい傑作です。