2019/05/05

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第57回 桜庭一樹『少女七竈と七人の可愛そうな大人』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第57回 2019年5月5日)では、桜庭一樹『少女七竈と七人の可愛そうな大人』を取り上げました。表題は「狭い町で描く不自由な恋愛」です。石狩川から撮影した大雪山連峰のよい写真を掲載頂いています。

北海道のほぼ真ん中にある旭川を舞台とした作品です。旭川は北海道第2の都市ですが、この作品では「ひんやりとしたちいさな町」であると形容されています。桜庭一樹らしい、近親の際どい恋愛を描いた作品です。

桜庭一樹は、後に直木賞を受賞する『私の男』でも、北海道を舞台にして血縁の濃い、父娘の恋愛を描いています。キリスト教の倫理的な意識が強い西欧の文学では、近親相姦はタブー視される傾向が強いですが、日本では、源氏物語をはじめとして、血縁の近い相手との恋愛や結婚が、文学作品で多く描かれてきた歴史を持ちます。

この小説は、源氏物語のような「血縁の近い男女の恋愛」を描いた宮廷小説とは異なり、旭川という地方都市の閉じたコミュニティを舞台としています。「あまりに人目をひく、天上人のような美貌」を持つ若い男女の、明るい青春を描くというよりは、その美貌が狭いコミュニティで人々に妬まれ、不自由さを強いられる姿を描いている点が、現代小説らしくて面白いです。
「顔」をメディアとして生きる人間存在の悲哀について、小説らしい表現で考えさせられる作品です。


P.S.
連休中も毎日原稿を書く日々でしたが、今日はこどもの日ということもあり、「おしりたんてい」のショーに行ってきました。暑くてストーリーは頭に入らなかったのですが、「おしりたんてい」の顔(おしりと呼ぶべきか)が、他のキャラクターを圧倒する大きさで、おしりから紅茶を飲む点など、ニコちゃん大王とは異なる「新しい時代」の流れを感じました。