2019/04/28

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第56回 奥泉光『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第56回 2019年4月28日)は、奥泉光の『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』について論じた内容です。表題は「新時代と格闘する大学教員」です。個人的に、続編を心待ちにしているシリーズ(現在3作目まで刊行)の小説です。

千葉県の「権田市」にあるとされる、架空の「たらちね国際大学」を舞台にした作品です。主人公のクワコーこと、桑潟幸一は40歳の日本文学を専門とする准教授で、査読なしの紀要論文を2本しか発表した業績しかありません。そういうクワコーを引き抜いたのは、レータン時代に学部長を務めていた元大手消費者金融会社の取締役で、『ヤクザに学ぶリアル経営術』という本で「学者デビュー」をした鯨谷光司教授です。

クワコーは著名な名誉教授の娘婿が、大学院時代の指導教授であったという理由で、大学教員となった人物です。学会に出れば「気がつくと必ず一人になっている」のだとか。彼は大学に新興宗教の団体が出資していることを知って、「どんなカネでもカネはカネ」と、生活が保障されたことに安堵するような性格を持っています。

クワコーが大学教員として生きるのは、少子高齢化と過疎化が進行し、学生募集に苦しむ「地方の大学」のリアルな現実です。このシリーズの作品を読むと、定員割れのない大学で働けることの有り難さを実感してしまいます。

次月は「新潮」と「文學界」に書評を書いています。『メディア・リテラシーを高めるための文章演習』も売れ行き好調で、同書の内容を踏まえて、今年はメディア系の博物館の展示を作ったり、教育用のDVDの監修を行ったりする予定です。