2019/05/19

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第59回 奥泉光『黄色い水着の謎』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第59回 2019年5月19日)では、奥泉光の桑潟幸一准教授シリーズの第2作『黄色い水着の謎』を取り上げました。表題は「地方私大の可能性は?」です。今月の「文學界」の書評を入れると、桑潟幸一准教授シリーズの全3作をひと月ほどで批評したことになります。房総半島の私大を舞台にした、このシリーズへの「思い」が、伝わる文章になっているかと思います。

この作品は、都心から電車で2時間ほどの房総半島の山奥にキャンパスを有する「たらちね国際大学」を舞台にしています。主人公の桑潟幸一(クワコー)は、40歳の日本文学を専門とする准教授で、大学の最寄り駅である房州電鉄肥ヶ原駅近くのブロッコリー畑に臨むアパートに住んでいます。クワコーは「オレだよ。オレオレ、オレがやったんだよ」という具合に「覚えのない罪」を告白するのが真の人間だと思っている文学的(ドストエフスキー的)な人物です。

大学の准教授というと世間体こそいいですが、たらちね国際大学の場合は、宗教団体や消費者金融の出資を受けた過去を持ち、経営難に陥っているため、クワコーの月給は手取りでたったの110350円です。夏のボーナスも、家電量販店の値札のような金額(49800円)であったため、本作でクワコーは魚やセミを採り、食費を浮かすことを決意します。

一見すると面白おかしい話ですが、縄文時代に遡り、千葉の海の豊かさを讃えながら、定員割れした私立大学の使命について考えさせられる内容で、たらちね国際大学の教育の可能性を模索する展開に、読み応えを感じます。

シリーズ第1作の『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』については、下の連載第56回目で取り上げています。
https://makotsky.blogspot.com/2019/04/56.html