2019/10/07

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第79回 三浦しをん『神去なあなあ日常』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第79回 2019年10月6日)は、三浦しをんの『神去なあなあ日常』を取り上げています。表題は「若者の成長、山林舞台に」です。

先週から校務と授業に復帰しつつ、ノーベル文学賞向けの「原稿(某作家が受賞した場合のみ掲載)」を書き、来月売りの文芸誌向け原稿に取り組んでいます。
今週メディア・リテラシー教材DVDの解説部分の撮影を大学で行うのですが、撮影スペースを確保するため本を片付けるのが大変で、筋肉痛になりました。

『神去なあなあ日常』は、三重県の山奥にある架空の神去村を舞台に、担任の斡旋で林業の研修を受けることになった若者を描いた作品です。森林の手入れは、防災対策や水源の保全の上でも重要であるため、林業の研修生を受け入れた森林組合や林業会社に、助成金を付与する仕組みが現実に存在します。

日本では古くから身近な資源として木々が利用され、地震や津波、火災等の災害や戦災からの復興にも木材が利用されてきました。また豊富な木材を使った印刷技術が普及したことで、江戸時代には書籍や浮世絵などが廉価で流通するようになり、木々は日本文化の成熟にも貢献してきました。

勇気は恵まれた環境で林業研修を受けながら、先人たちから継承されてきた山仕事の技術を実地で学び、人間としても生長していきます。山仕事が神事と紙一重の営為であり、森林が国土の3分の2を占める日本列島で、長らく信仰と結び付く形で根付いてきたことが分かる現代的な「木こり文学」です。