2020/03/09

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第99回 桐野夏生『バラカ』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第99回 2020年3月8日)は、桐野夏生の論争的な「震災・原発事故文学」の傑作『バラカ』を取り上げています。表題は「震災の「被害格差」炙り出す」です。

連載100回まであと1回です。100回が来たからと言って特に何があるわけでもないのですが、新学期までに連載のストックを増やすべく、本を読み文を書く日々を送っています。COVID-19の海外報道をチェックしていて思うのですが、東京オリンピックはたぶん中止だろう、選手を送るのは無理っぽい、という感じの報道がだいぶ増えてきました。国際世論と風評被害を跳ね返すだけのリカバリーができるのか、どうなのか。

桐野夏生の『バラカ』は福島第一原発事故を題材とした作品です。この小説で福島第一原発事故は、水素爆発ではなく、核爆発を起こしているため、チェルノブイリ原発事故のように、放射能汚染が広範囲の土地で深刻化しています。東京も避難勧告地域に指定され、放射線量が高く、日本の首都も大阪に移転されています。「バラカ」は、震災と原発事故を忘却し、オリンピック景気に浮かれてきた日本に住む私たちの姿を、移民という他者の視点を通して辛辣に風刺した、桐野夏生らしい論争的な作品です。



あらすじ
「爺さん決死隊」の豊田に拾われたバラカは、反原発を主張する市民団体の支援を受けながら成長していく。甲状腺ガンの手術跡を持った美しい少女となった彼女は、その運動の象徴となり、様々な人間を惹き付ける。バラカの実父であるパウロは、宗教団体を通して原発事故後の日本社会の暗部に分け入り、失踪した娘を探し回る。桐野夏生の作品らしいスケールの大きなミステリー小説。