2020/03/01

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第97回 堀江敏幸『いつか王子駅で』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第97回 2020年2月23日)は、堀江敏幸の初の長編小説『いつか王子駅で』を取り上げています。表題は「下町の矜恃、生活の手触り」です。堀江敏幸は、私小説の形式を通して、日常の些事の中に宿る、人々の「生活の手触り」とでも言うべきものを、鮮やかにとらえるのが上手い作家です。



堀江敏幸『いつか王子駅で』あらすじ
 都電荒川線が走る王子を主な舞台に、「時間給講師の私」と「昇り龍の正吉さん」の交流を描いた作品。王子は都電荒川線を代表するターミナル駅で、埼玉との県境に近い北区の中心地である。私は「五段変速のバックミラーつき」の自転車で王子の町をプラプラしながら、下町を生きる人々の姿を通して、地に足を着けて生きる意味について考える。若き堀江敏幸の生活を描いた私小説とも読める。