2020/06/09

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第111回 川上弘美『センセイの鞄』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第111回 2020年6月7日)は、川上弘美の谷崎潤一郎賞受賞作『センセイの鞄』を取り上げています。表題は「円環的な自由恋愛描く」です。

本作が国際的な評価が高いのは、ツキコとセンセイの恋愛が、親子ほどの年齢差がありながら、内的な描写が深く、「時空間」を超える闊達さを有しているからだと思います。40歳を前にして結婚に向かないと感じた女性と、15年ほど前に妻に逃げられた過去を持つ訳ありの老人との、互いの人生に深く干渉しない、ほどよい距離のある恋愛を描いた作品です。

この作品は2003年には久世光彦の演出、小泉今日子の主演でドラマ化されました。ツキコとセンセイが住む場所のロケ地として国立市が選ばれ、小説の雰囲気を上手く捉えていて味わいがあります。



あらすじ
 地元の駅前の一杯飲み屋で偶然隣り合わせたツキコとセンセイの短くも、内的なつながりの深い、大人の恋愛を描いた作品。共に酒を飲むことを好み、キノコ狩り、花見、遊山、美術鑑賞など、季節感のある時間を共にする。第37回谷崎潤一郎賞を受賞。