テヘランで生まれ、カイロと大阪で育った西加奈子は、様々な土地に根差した作品を記しています。作者の多文化的な経験を反映してか、この作品で描かれる肉子ちゃんも、大阪、名古屋、横浜、東京、石巻をモデルにした港町を渡り歩いています。西加奈子にしか書きえない、土地に根を張り、明るく生きる人間存在の逞しさを捉えた「ポスト震災文学」だと思います。
西加奈子『漁港の肉子ちゃん』あらすじ
男にだまされ続ける「肉子」と彼女を母に持つ小学生の喜久子を描いた作品。母の恋人だった「自称小説家男」が残したサリンジャーなどの小説を読んで育った、早熟な小学生の喜久子の視点から、北陸の漁港の焼き肉屋の裏に住む母娘の日常が綴られる。母親に遠慮する娘の描写が愛らしい、西加奈子の代表作の一つ。