2020/07/15

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第116回 田中慎弥『神様のいない日本シリーズ』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第116回 2020年7月12日)は、田中慎弥の代表作『神様のいない日本シリーズ』を取り上げています。表題は「奇跡の逆転Vと独白する父」です。1958年に3連敗後に4連勝して日本シリーズを制した西鉄ライオンズの奇跡を起点とした作品で、「神様」とは「神様、仏様、稲尾様」と称えられた大エース・稲尾和久のことです。写真は懐かしの九州の野球の聖地・平和台球場のモニュメントを掲載頂きました。

この作品は、1958年に西鉄が起こしたような奇跡を、後に母親となる女性と共に「神様」なしで引き起こそうとする父親の話です。1986年に一文字違いの「西武ライオンズ」が日本シリーズで3連敗後に4連勝する日に、その奇跡は起きるのかどうか。

サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」を引きながら、なかなか姿を現さない超越的な存在として祖父を描きつつ、太宰治の「走れメロス」を引きながら、処刑されることを覚悟で、努力して姿を現す、隣人のような存在として祖父を描いている点が面白い作品です。



田中慎弥『神様のいない日本シリーズ』あらすじ
1958年、西鉄ライオンズは巨人に三連敗しながらも、鉄腕・稲尾和久の活躍で日本シリーズを制する。小学校の時に失踪した祖父と野球をめぐる思い出や、中学校の時に後の母親と上演した「ゴドーを待ちながら」の思い出が、父親の視点から「扉一枚分」の距離で語られる。