この作品は、1958年に西鉄が起こしたような奇跡を、後に母親となる女性と共に「神様」なしで引き起こそうとする父親の話です。1986年に一文字違いの「西武ライオンズ」が日本シリーズで3連敗後に4連勝する日に、その奇跡は起きるのかどうか。
サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」を引きながら、なかなか姿を現さない超越的な存在として祖父を描きつつ、太宰治の「走れメロス」を引きながら、処刑されることを覚悟で、努力して姿を現す、隣人のような存在として祖父を描いている点が面白い作品です。
田中慎弥『神様のいない日本シリーズ』あらすじ
1958年、西鉄ライオンズは巨人に三連敗しながらも、鉄腕・稲尾和久の活躍で日本シリーズを制する。小学校の時に失踪した祖父と野球をめぐる思い出や、中学校の時に後の母親と上演した「ゴドーを待ちながら」の思い出が、父親の視点から「扉一枚分」の距離で語られる。