2020/07/29

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第118回 絲山秋子『離陸』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第118回 2020年7月26日)は、絲山秋子の九州を舞台にしたミステリー長編『離陸』を取り上げています。表題は「球磨、中米…ミステリー大河」です。写真は西日本新聞社が空撮した2020年7月の記録的豪雨で破損した球磨川第一橋梁で、熊本県の南部を走る球磨川の流域を主な舞台にした作品です。

幼少期に長崎大水害を経験したこともあり、今年の豪雨被害の大きさにやるせなさを感じています。

物語は熊本県の八代市や群馬県のみなかみ町を起点としながらも、五島列島の福江島、会津若松、パリ市内や中米のマルティニーク島、ヨルダン川西岸地区など、広範な場所で展開されています。先見的な球磨川の土地への描写が印象に残る内容で、絲山秋子にしか書きえない、日本とフランスの双方の「周縁の歴史」に立脚したミステリー仕立ての大作です。



絲山秋子『離陸』あらすじ
長崎の五島出身の舞台女優、乃緒の謎めいた失踪事件を、国土交通省のエリート官僚・佐藤の視点から描いた異色のミステリー小説。乃緒の消息がリヨン、パリ、イスラエル、九州など広範囲で確認され、佐藤もユネスコ科学局への出向を命じられ、パリを拠点に乃緒の失踪の謎に迫る。絲山秋子作品としては珍しい長編のミステリー小説。