2020/07/21

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第117回 堀江敏幸『雪沼とその周辺』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第117回 2020年7月19日)は、堀江敏幸の谷崎潤一郎賞受賞作『雪沼とその周辺』を取り上げています。表題は「不器用な時代遅れへの愛着」です。堀江敏幸が生まれ育った岐阜県多治見市の周辺を舞台にしたと思しき作品です。

この作品は「雪沼」という架空の土地を舞台にして、時代に取り残された品物で商売をする人々を描いた作品です。単純さや明快さ大事にして生きる人々の、行間に垣間見えるちょっとした日常の努力や、人生の豊かさが魅力的です。

レイモンド・カーヴァーの作品のように、田舎町に根を張って生きる人々の、ちょっとした「こだわり」や「感情の訛り」を通して、人間存在の面白さを浮き彫りにすることに成功していると思います。谷崎潤一郎賞に相応しい、現代の日本文学を代表する作品の一つです。


堀江敏幸『雪沼とその周辺』あらすじ

雪沼というスキー場で有名な架空の町を舞台にした、オムニバス形式の短編集。山間のひなびた町で、ボーリング場や書道塾、レコード店や中華料理屋などを営み、時代から取り残された人々の生活を、生き生きとした筆致で描く。第40回谷崎潤一郎賞受賞作。