2020/09/01

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第123回 遠野遥『破局』

 西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第123回 2020年8月30日)は、遠野遥のデビュー2作目&芥川賞受賞作『破局』を取り上げています。表題は「抑圧と解放 現代の青春残酷物語」です。慶應義塾大学を舞台にした小説ですので、大学院から助教時代まで10年ほどいた時の内輪ネタも織り込みつつ論じました。

慶應義塾大学のキャンパスを舞台に、筋トレと性行為を両輪として肉体的な欲望を満たすための努力を惜しまない「優等生」の生活を描いた作品です。デビュー2作目で、28歳の若さで芥川賞を獲得した遠野遥の「私小説」ともとれる赤裸々な描写が話題となりました。

この作品は慶應の付属校出身で政治家志望の麻衣子の「高すぎるプライド」と、地方出身で一見すると大人しそうに見える灯の「性的な貪欲さ」の双方に翻弄される陽介の無意識的な欲望の流れを巧みに描いています。「破局」は優等生・陽介の抑圧された欲望と、解放された欲望の落差を上手く表現した、現代的な「青春残酷物語」だと思います。


遠野遥『破局』あらすじ

慶應義塾大学を連想させる「日吉」と「三田」のキャンパスを舞台とした作品。主人公の陽介は元ラガーマンで体格が良く、女性にもてる。ただ公務員を志望していることもあり、社会的な規範に対する意識が強く、女性との関係の持ち方も抑制的である。陽介は付き合っていた4年生の麻衣子と別れて、偶然知り合った1年生の灯と初々しい付き合いをはじめるが、ちょっとした問題で「破局」へと向かう。