2020/09/16

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第125回 島田雅彦『カタストロフ・マニア』

 西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第125回 2020年9月13日)は、島田雅彦のディストピア小説『カタストロフ・マニア』を取り上げています。表題は「感染症が蔓延 原野へ先祖返り」です。

この作品は感染症が蔓延する2036年の東京を描いた、島田雅彦の作品としては珍しいSF小説です。2017年に発表された作品ながら、現在の新型コロナ禍を彷彿とさせる「パンデミック小説」でもあり、島田らしい皮肉の効いた文明批評が随所に見られます。小説の前半で「カタストロフ」の原因が「太陽のしゃっくり」(コロナ質量放出による磁気嵐)を引き金に起こった、感染病の蔓延を伴う連鎖的な災害であったことが明かされて、小説はSF小説のような展開をみせます。2017年に発表された小説に「コロナ」や「感染」という言葉が使われている先駆性に、驚かされます。

クーデターを起こし新政府設立の準備をしているパルチザン「代々木ゼミナール」や、「致死率の高いウイルス」を使って、近未来版の「ノアの箱舟」を作ろうとする政治家を巻き込んだ陰謀など、ディストピア小説の中に、島田雅彦らしい文明観が垣間見えるのが面白い作品です。


島田雅彦『カタストロフ・マニア』あらすじ
主人公のシマダミロクは、新薬の治験に誘われ、「冬眠マシーン」に入れられる。目を覚ますと、そこはゲームの世界と現実の世界が入り混じったディストピア=東京であった。「新種の伝染病」に怯えながら、東京外国語大学の近くの集落で自給自足の暮らしをする中で、ミロクは永田町や霞が関の地下に巨大なシェルターがあることを察知し、クーデターを画策するグループに接近していく。