西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第126回 2020年9月20日)は、上田岳弘の代表作の一つ『塔と重力』を取り上げています。表題は「「小窓」で生きる複雑な世界」です。
38歳の主人公は、17歳の時に予備校仲間と勉強合宿に行った時に、阪神淡路大震災に遭い、宿泊先のホテルが倒壊して、約二日間生き埋めになった経験があります。この時同じホテルには、恋心を寄せていた美希子も宿泊していたが、彼女は救助された後に亡くなってしまいます。それ以来、田辺は瓦礫に生き埋めになった時の記憶や、美希子との記憶に、フラッシュバックのように襲われています。第二次世界大戦時のトラウマで、人生の節目節目の時間を繰り返し追体験する奇妙な男を描いた、カート・ヴォネガット・ジュニアの『スローターハウス5』を彷彿とさせる作品です。
上田岳弘『塔と重力』あらすじ
神戸で震災を経験し、ホテルで生き埋めとなり恋人を亡くした過去を持つ田辺。彼はその過去を克服できず30代となり、大学時代の友人の水上には「お前はまた生き埋めに戻って来たんだよ。お前は助かっていない」と言われている。恋人・葵のFacebookで5000人以上の人々と繋がり、幻想に悩まされる。「塔」の崩壊と再生をめぐる現代小説。