2021/05/17

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第158回 ねじめ正一『高円寺純情商店街』

 西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第158回 2021年5月16日)は、明治大学中野キャンパスから徒歩圏内にある商店街を舞台にした、ねじめ正一『高円寺純情商店街』を取り上げました。表題は「街に根を張る商いを『写実』」です。中野キャンパスからは、高層ビルが林立する新宿副都心も良く見えますが、中野サンモール商店街・中野ブロードウェイや、高円寺純情商店街など、活気のある商店街にもアクセスしやすいです。

 商店街で生まれ育ったねじめ正一だからこそ書けるような描写が魅力的な作品です。乾物屋は梅雨時になると朝から晩まで湿気を防ぐことに気を配り、魚屋は、夏は魚が腐らないように気を配り、冬は冷たい水で魚を洗うため手が荒れ、年間を通して大声を出して活きの良さを演出します。

 小説の設定と同じく、ねじめ正一の実家は高円寺で乾物屋を営んでいました。乾物屋は「ねじめ民芸店」に変わり、阿佐ヶ谷に移りましたが、ねじめ正一は詩人としてデビューした後も民芸店の店主を務めていました。この小説が直木賞を受賞したのち、「高円寺銀座商店街」は「高円寺純情商店街」へと名称を変更しています。実在の街の名前が、小説の街の名前に変わるという例は、日本の文学史において極めて稀だと思います。商店街で乾物屋の息子として生まれ育ってきたことへの自負と、個人商店主への敬意と愛情が伝わってくる作品です。

西日本新聞meへのリンク

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/739443/

ねじめ正一『高円寺純情商店街』あらすじ

 高円寺駅の北口にあるとされる「純情商店街」で生きる人々を、乾物屋の「江州屋」で生まれ育った「正一」の視点を通して描いた作品。乾物屋の仕事の傍ら俳句に熱中する父親や、隣の魚屋を手伝うケイ子、銭湯で番台に立つ小学校の同級生の宮地サンなど、周囲の人々の描写が味わい深い。ねじめ正一の自伝的な作品であり、第101回直木賞受賞作。