2018/04/08

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第二回 カズオ・イシグロ「浮世の画家」

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」第二回では、カズオ・イシグロの二作目『浮世の画家』について取り上げています。表題は「故郷喪失者が描く戦後」です。以前に「文學界」でも書きましたが、長崎を想起させる町を舞台にした「浮世の画家」は、カズオ・イシグロの代表作と言える作品で、三作目の『日の名残り』の原型となる物語構造を有しています。

小説で描かれる「the bridge of hesitation(ためらい橋)」は、明らかに長崎を代表する歓楽街「思案橋」をモデルとしたものです。夜の街、思案橋の煌びやかな雰囲気がよく伝わってくるとても良い写真が掲載されています。担当記者の内門博氏と、日暮れまで粘って撮影した一枚です。ぜひご一読下さい。

この近くで私は生まれ育ったので、西日本新聞のカラー誌面で、「思案橋」の写真と共に、カズオ・イシグロの代表作について批評する機会を得られたのは、幸運かつ幸福なことでした。しばらくは入院している身内へのお見舞いの気持を込めつつ、生まれ育った長崎への両義的な感情を胸に、長崎を舞台にした小説を取り上げていきます。




2018/04/01

新連載・西日本新聞「現代ブンガク風土記」

2018年4月1日より、西日本新聞で「現代ブンガク風土記」という連載を、毎週日曜に担当します。日本の「地方」を舞台にした「地に足の着いた」現代文学を毎週一冊取り上げ、作品の魅力について、読み所となるポイントを明示し、批評する内容です。

初回はカズオ・イシグロの長崎を舞台にしたデビュー作「遠い山なみの光」です。 第一回の記事タイトルは、「市井の戦争責任」問う、です。イシグロの生家近くの長崎らしい石畳の路地で撮影した桜並木の写真が掲載されています。写真にもこだわった連載です。

表題を「ブンガク」と片仮名にしたのは、この連載で取り上げる作品が、必ずしも文芸誌に載る「純文学」の作品に限らないからです。直木賞や山本周五郎賞を受賞している作家の優れた作品も多く取り上げます。長崎の磨屋小学校の先輩の山本健吉や奥野健男の『現代文学風土記』のコンセプトを一部継承しつつ、内容の上で区別するニュアンスもあります。

風景や生活空間の均質化と、過疎化が進行する現代日本ですが、「地方」の現実感やその価値観を捉え直す、魅力的な小説が多く執筆されています。この連載では、「地方」を舞台にした、現代を代表する小説の表現を手がかりにして、土地と人間との現代的な関係について考えていくことを目的としています。

ぜひお時間のある時にでもご一読下さい。ウェブ版も近々、公開されると思います。

西日本新聞社の社告での紹介
http://c.nishinippon.co.jp/announce/2018/03/039781_post-99.php



2018/03/28

ゼミ冊子「メディア表現」第二号を刊行しました

文教大学酒井信ゼミ制作の冊子「メディア表現」第二号を刊行しました。130ページの分量で、昨年よりも20ページ以上増えています。メディア表現学科の教育内容を紹介する記事や、2017年の世相を踏まえた学生達のコラム、アンケート調査、教員やOG・OBへのインタビューなど、様々な記事が掲載されています。ゲスト講義の紹介欄では、作家の佐川光晴氏をはじめ、様々なメディア関係者にお話し頂いた内容も掲載されています。

「100ページを超える分量で、『足で書く』取材記事と、アンケート分析を主とした冊子を作ってほしい」という私からのオーダーに、メディア表現学科2期のゼミ生も、頑張って応えてくれたと思います。制作に関わった学生には「厚み」のある冊子を「名刺代わり」に、就職活動を頑張ってほしいところです。

アンケート調査とその分析内容も面白く、情報学部らしいWebメディアを中心としたメディアの接触頻度の調査や、家族とのコミュニケーションの状況、恋人の有無などに関する社会学的な調査、原発の維持や憲法改正に対する政治意識に関する調査など、定点観測で経年変化を調べるのに興味深いトピックが並んでいます。

「メディア表現」はオープンキャンパスや学園祭など、大学の行事で、メディア表現学科の教育活動の紹介を趣旨として配布します。今後も年一回の刊行予定です。
将来的にはウェブ・コンテンツとしての展開も見込んでいます。
大学での教育意図や冊子制作の方法論についての詳細については、2018年度の日本出版学会の春季大会でお話しします。










2018/03/20

メディア表現学科一期生の卒業式

メディア表現学科一期生の卒業式でした。2014年に広報学科から改組し、その準備段階から入試委員・教務委員を計6年担当してきたので、学科の教育内容に思い入れを抱いています。3年次の100ページを超えるゼミ冊子の制作や、4年次の40ページ前後の卒業研究など、課題が多いゼミだったと思いますが、よく頑張ってくれました。卒業生の顔ぶれをみると、多様で、将来が楽しみな学生が育ってくれたと実感しています。全員の就職先も決まり、劇団四季のような「メディア表現」ど真ん中の企業から、@COSMEのように自社でメディアを持っているIT企業、富士通テクノソリューションズのように、キャンパスのある神奈川を代表する企業まで、幅広い就職・進学の実績が出て良かったです。毎年、横浜でOG・OB会を行っていますので、皆さんの生長した姿を見るのを楽しみにしています。


2018/03/09

Asian Journal of Journalism and Media Studies(日本マス・コミュニケーション学会の英文ジャーナル)の論文募集

Asian Journal of Journalism and Media Studies(日本マス・コミュニケーション学会英字ジャーナル)の2号の編集長を担当することになりました。現在、論文を募集しています。
特集のテーマは“Public Opinion and Media Discourse in the Era of Fake News and Filter Bubbles.”です。

テーマの詳細や論文作成のガイドラインについては、上のPDFをご参照下さい。もし関心のありそうな方をご存じでしたら、ぜひCall For Papersをご紹介を頂けると幸いです。
日本に限らず、英語圏のMedia Studiesに関連する学会でも告知を行い、韓国・中国・台湾のMedia Studies系の学会でも、韓国語版・中国語版(簡体字及び繁体字)を作成し、告知する予定です。よろしくお願いいたします。

CALL FOR PAPERS
Asian Journal of Journalism and Media Studies (ISSN2189-8286) No.2
I'm pleased to announce a call for papers for a special issue of AJJMS, No.2, on “Public Opinion and Media Discourse in the Era of Fake News and Filter Bubbles.”
I'm looking forward to your contribution!

Possible topics may include but are not limited to: Journalism Research, Social Informatics, Communication Research, Cultural Studies, Political Communication Research, Media Education Research, Media History, Media Studies.
I wrote about the theme of this special issue as a editor-in-chief. Please see the details below.

特集テーマについて(Call For Papersより抜粋)
 ウェブ上のメディア環境の進歩は、個々人の情報接触の利便性を高める一方で、未知の情報や意見の異なる他者との偶発的な出会いの機会を低下させるリスクを有しています。Eli Pariser は、現代の情報環境の特徴を「Filter Bubble」と名付け、人々が自己の興味関心に応じて、見たい情報だけを見るためのフィルターに囲まれるようになっていることを問題視しています。「Filter Bubble」に囲まれたコミュニケーション空間においてメディアは、公共性が高く、複雑な問題についての理解を必要とする輿論(Public Opinion)を形成するよりも、アクセス数や広告収入を確保するために、人々の快不快の感覚に働きかける世論(Popular Sentiments)を形成する傾向を強めています。
 Fake News の起源は古く、昔から人々は流言飛語に踊らされるだけでなく、それに踊らされることを楽しんでもきました。現代の情報環境においてもそれは変わりません。近年では Fake News だけではなく、ウェブ上で現実には存在しない人物を媒介とした Fake Accounts が、国境を超えて政治的な工作や、経済的なマーケティングのツールに使われています。また Fake GPS が現実の世界で生きる人々の位置情報を偽装する目的で普及してもいます。
私たちが日々接触する情報が、各々の興味関心の履歴を基にパーソナライズされたり、偽装されたものになるにつれて、不特定多数を対象とした情報を配信するマス・メディアは、面白さと利便性の点でウェブ・メディアに敗れ、マネタイズの問題に直面するようになりました。結果としてメディアの言説は、公共性を育み、善悪や真偽の基準となる輿論(Public Opinion)を形成する機能を弱めていると言えます。
ウェブ上の情報環境を良いものにし、人々が「情報の自治」の担い手として公共圏と親密圏の双方に根を張った「新たなメディア環境」を構築して行くために、輿論(Public Opinion)や、輿論を醸成するメディアの言説はどのようなものであるべきなのでしょうか? また、私たち Media Studies に関わる研究者は、Filter Bubble や Fake Information に囲まれた現実とどのように向き合い、どのような問題意識を持ち、何を研究対象にして行けばいいのでしょうか?
 AJJMS 第二号では、このような問題意識から、新たな情報環境に根ざした「輿論」と「メディア言説」のあり方について、アジア地域の事例を視野に入れながら研究した論文を募集します。
編集長 酒井信


2018/02/26

「問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点 成果報告会」での発表

今週末に名古屋の中部大学・中部高等学術研究所で行われる「問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点 成果報告会」で発表を行います。
第二部の最初で「平成期の日本の自然災害に関する新聞報道の定量的な分析と地理空間上の報道分布に関する研究」についての発表です。研究補助員として雇用したゼミ学生2名も引率します。

東日本大震災の報道に埋もれた自然災害(落雷、雪崩、土砂災害、地滑り、崩落)に関する報道の分析を行うことを主目的として、これらの自然災害の報道で言及されている「被災地」を地理空間上にマッピングし、その集中と分散の傾向や報道内容を定量的に分析した内容です。


日本の報道(朝日・読売・毎日・日経の2012年〜2016年の記事、地方版も含む)を対象として、地理空間情報や被災の程度に関する10項目ほどのメタデータを整理し、その報道傾向を分析しています。

昨年は文芸誌に約500枚の原稿を書いてるぐらいなので、しばらく定量的な報道分析の研究からは遠ざかっていたのですが、特定課題研究「サイエンス・コミュニケーション・システム開発」で採択を頂いたので、上記の研究に取り組みました。

この研究は、前任先の慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所(現・慶應義塾大学グローバルリサーチインスティチュート)で行っていた共同通信社との英字ニュース解析の共同研究を応用したもので、5つの自然災害にトピックを絞り、人手による分析に重きを置いて、個人レベルで可能な研究として展開した内容です。

例えば、下は落雷に関する524件の報道のクラスター分析の結果と、地理空間上の分布に関するスライドです。落雷の発生数は九州や山岳地域が多いのですが、これらの地域では報道数が少なく、平野部に報道が集中していることが分かります。また落雷よりも雪崩の方が死亡事故を伴う可能性が高いため、数多く報道され、クラスターが数十%単位で大きくなることも分かります。この研究では自然災害に関する報道の質と報道量の格差が生じる理由について、分析を行っています。




と、書いているとふと前の職場が懐かしくなったので、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティチュートのHPを久しぶりに確認したところ、ドローンを使ったと思しき三田キャンパスの空撮がいい感じのHPに変わっています。
http://www.kgri.keio.ac.jp/

以前はもっと地味な堅い研究所、という感じのHPでしたが、どなたか(たぶん慶應のどこかの学部の若手研究者)が頑張って更新されたのだと思います。

最初に映像に映る東館で働いていましたが、東京タワーの景色の素晴らしさもさることながら、中国飯店まで徒歩30秒、席に着いてお茶を一口飲み、担々麺を注文するまで1分という距離が素晴らしく便利でした。

上記の定量的な報道分析は応用範囲が広いのと、少々複雑な方法論とノウハウが出来上がっているので、関係する分野の先生方と、これからも共同研究をご一緒したいと考えています。

2018/02/22

中国文化大学(台湾)をゼミ生と訪問しました

台北の陽明山にある中国文化大学の新聞伝播学部(マスコミュニケーション学部)をゼミの学生と訪問しました。元新聞記者で同大学の教員の郭先生と学生たちの案内で、陽明山にある眺望のいいキャンパスを隅々まで見学させてもらいました。郭先生とは、以前に国際学会のセッションを一緒に運営して以来の仲です。


新聞伝播学部の設備は、日本のメディア系の学部と類似していましたが、学生達が台北のメディアで流す番組を制作したり、毎週、学生新聞を発行したり、設備を生かした活発さな課外活動が強く印象に残りました。学生達も、インターンシップが日常化している学生のパワーに感化されていたようでした。



大学の施設では、屋台っぽい雰囲気で様々な食べ物が並ぶカフェテリアの居心地がよく、日本の学食にも、もっと屋台感が必要だと個人的に思いました。キャンパス内で化粧品が売っているなど、微妙に日本と異なる部分が面白かったです。
日本のチェーン店舗も多く街中に進出している一方で、学生街の個人営業の食堂も活気に満ちていて、150円ほどで十分空腹が満たせます。

キャンパス内にはバスケットコートが多く、台湾のバスケット人気が実感できました。漫画『SLAM DUNK』の舞台となった湘南の聖地を、台湾の観光客の方々が多く巡っているのも納得がいきます。

陽明山から見る台北市や淡水の町の景色は素晴らしいですが、曇りや雨の日が多いそうです。晴れの日のイメージが強いわりに曇りの日が多い沖縄と気候風土が似ていると思いました。

近隣には、米軍から返還された兵隊の宿舎が林立しているのですが、その一帯が観光地となり、多くの建物がリフォームされてお洒落なレストランになっています。米軍に関する施設の雰囲気が、沖縄と全く異なっているので、沖縄出身の学生も興味を持っていました。





夕食で食べた小籠包の味にも大満足で、台湾の懐の深さに充実した一日を過ごしました。

個人的には、東アジアの他大学を大学生のうちに訪れることで、「日本を出たことないのに日本が一番」みたいなことを言う大人を減らすことができれば、いいかなと思っています。

日中台湾で共通の基金を作って、ミネルヴァ大学のように、大学生のうちに東アジアの3、4カ国を半学期で回る「必修プログラム」があっても面白いと思います。
という考えも、高校の修学旅行が、日中友好事業で北京を訪れる内容だった影響もあるのだと思います。

東アジアの国々の若者が互いの国を密に訪問し、現実の交流を土台としてWeb上で繋がれば、感情的な政治問題の多くは解決する気がしています。

2018/02/12

文教大学酒井信ゼミ 卒業研究一覧

2010年に着任して2017年までの文教大学酒井信ゼミの卒論の一覧を作成しました。
ゼミの卒論については、仮説を立てて、それを立証する形式を採り、新聞・雑誌・書籍を通して社会秩序や価値観の変化について分析する「メディア研究」であれば、テーマ設定は基本的に自由としています。一覧を作ってみると、学際的で、多様なテーマが並んでいて面白かったです。

卒論は、選択科目だった時期が長く、必修科目の時期とは、提出された論文の数(と教員の仕事量)が異なりますが、ほとんどの論文がA4で30ページを超える分量の内容で、50ページ以上の論文も多くあります。多くの学生(と教員)が時間をかけ、多くの良い論文が仕上がったことを嬉しく思います。

文教大学酒井信ゼミナール 卒業研究一覧


一覧を振り返って、卒業研究に傾向のようなものがあるか、確認してみました。
先ず気になったのは、教員の関心に近いテーマの論文です。
「ICT時代における市民ジャーナリズムと『正義』」
「東日本大震災における東北の地方紙の役割」
「四国・愛媛における 道州制の望ましいあり方についての研究  -『スローシティ』と『ボローニャ方式』に学ぶ地方自治のあり方-」
「書店と電子書籍の将来 ~ITと店舗空間を利用した新ビジネスの可能性について~」
「現代日本のフリーペーパーとソーシャルメディアの比較分析 ~広告コンテンツの現状と将来について~」
「『異常気象』に関する新聞報道量の推移に関する研究 —2015年 関東・東北豪雨を事例として—」
など、相対的にオーソドックスなJournalism and Media Studiesの研究に取り組んだ学生は、出版社や新聞社、書店など、メディア関連の企業に内定を得ている場合が多いですね。内定を踏まえ、教員からオーソドックスなテーマで書くことを勧めた側面もありますが、本人のメディアへの関心も元々高かったのだと思います。

次に気になったのは個性的なテーマの研究です。
「ニュースメディアの分析を通した相撲の人気回復に関する研究」
「お酒に関するメディア表象の分析」
「フードファイト報道 ~テレビと漫画、2つのメディアから見る競技性とエンターテイメント性~」
「サブカルチャーから読み解く日本人の宗教観」
「現代日本のジェンダーレス現象と少女漫画の姓に関する表象の研究」
「日本における『ミーハーミュージカル』の功罪と商業演劇・ミュージカルの進むべき道」
など、個々人の趣味を貫いた論文を書いた人は、個性的な進路に向かう傾向が強いです。「フードファイト」とか「日本人の宗教観」とか「ミーハーミュージカル」とか、教員の関心とほど遠いテーマでよく卒論を仕上げたものだと感心します。

その次に気になったのは、論文の大半を占めるWebメディアに関する論文です。私のゼミは情報学部に属しているので、IT系の広告会社やコンテンツ配信会社へ就職する学生が多いのと、3年生向けに教員紹介のインターンをいくつかのIT企業にお願いしている影響があるのだと思います。
「デジタルネイティブ世代が インターネットマーケティングに及ぼす影響について」
「著作権と現代日本のサブカルチャーに関する研究」
「インターネット広告の現状分析とビッグデータの活用について」
「現代日本のOOH広告とWEB広告のクロスメディア分析」
「インターネットを用いた消費活動の普及と若者の消費行動に関する研究」
「消費の「これから」を担う世代の消費傾向から読み解く最新マーケティング事情」
など、全体に質の高い論文が多かったです。
IT系の広告会社やコンテンツ配信会社の就職状況も良好なので、論文の質と相関しているのでしょう。

最後に気になったのは、テーマ設定に迷う学生向けに推奨している、就職先の業界研究に繋がる内容の論文や、住んでいる地域の社会・風土に関する論文です。
「SNSによる地域活性化 ~地域SNSとゆるキャラ~」
「浜岡原発のメディア史」
「京都の観光ニーズに関するメディア分析」
「街コンから見る地方自治体の地域活性化政策 ~『次世代文化都市』宇都宮市の宮コンへの取り組みをケーススタディとして~」
傾向として、出身地域をテーマを選ぶ学生は、公務員や事務職など堅実な進路に向かう傾向が強いですね。私も地方出身者なのでよく分かりますが、家族と地元を大事にして、幸福な人生を歩むことは大切なことなので、論文のテーマとして学びを深めるのはいいことだと思います。

文教大学でゼミを担当して8年、卒業研究を担当して7年が過ぎました。30代前半で着任したときには、キャンパス最年少の専任教員だったと思うのですが、すでに私も40歳です。

若い学生達と関わり、相対的に平均年齢の高い職場にいると、いつまでも「若手」の役割を担うことになっていますが、世間一般では言い逃れのできない「中年」なので、そろそろ「四十にして惑わず」で、仕事と人生の地盤を固める時期かも知れません。

サザエさんで言えば、マスオが28歳、波平が54歳なので、ちょうど中間のキャラ立ちしにくい時期ですが、地道に努力していきたいと思います。今年は単著の出版を予定しています。

文教大学酒井ゼミのページ
https://makotsky.blogspot.jp/p/blog-page.html

2018/02/06

Foreign Press Centerのセミナーと賀詞交歓会に行ってきました

文教大学学園が賛助会員となっている公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)のセミナーと賀詞交歓会に行ってきました。外国メディアへの取材支援を行う日本新聞協会と経団連が設立した団体です。


国際学部の生田祐子先生の勧めで、文教大学の学生もインターンでお世話になっています。日比谷公園が一望できるいい立地で、日本プレスセンターには何度か来たことがありましたが、FPCJは初めてでした。

セミナーも面白く、在京の外国メディア(中央日報、トンプソン・ロイター、第二ドイツテレビ)の日本での具体的な取材の段取りが分かって興味深かったです。

中央日報の特派員の方が、「明治維新150年の取材をしていると、韓国のメディアというだけで、ネガティブな先入観を持たれて困る」と述べていたのが印象的でした。日本ではメディア報道のバイアスが問題になることが多いですが、取材対象であるごく普通の人々が無意識的に抱いている先入観やバイアスについても、考えるべき問題と思いました。

第二ドイツテレビの方が作った日本を取材した映像も面白かったです。特に麺類を食べないドイツの特派員に、現地の人がラーメンの麺の啜り方を一生懸命に身振りを交えて教えたり、24時間営業の店が全くと言っていいほどないドイツの人向けに、コンビニの便利さを伝える映像が印象に残りました。

Media Stuidiesに関する国際学会に参加する時に、いつも思うことですが、日本語だけで活字や映像のメディアを語れる時代は、遠い昔の話です。日本語のメディアで扱われている事例やその背後にあるドメスティックな価値観は、国際的に主流である英語圏のメディアの事例やその背後にある多文化的な価値観とズレています。

日本の自治体の広報関係者の出席の多さが印象的でしたが、インバウンドの観光客への広報活動が活発化している印象を受けました。日本の大学も、留学生が興味を持ったり、海外のメディアが関心を抱くような情報発信を行わないと、国際社会の中でどんどん取り残されていくように感じています。

懇親会も様々な国からいらしたメディア関係の方々や、国際協力活動に関わられている大学の先生方とお話しできて楽しかったです。





2018/01/29

映画監督・沢島忠

東映の全盛期を支えた映画監督、沢島忠が91歳で亡くなった。沢島の映画はスピード感があり、ダイナミックな展開に時代を描く深みがあった。私は黒澤明や小津安二郎と並べても遜色ない、戦後日本を代表する映画監督の一人だったと思う。

沢島の代表作として中村錦之助や美空ひばりの初期の映画が紹介されることが多い。しかし私にとっては何と言っても鶴田浩二、佐久間良子の『人生劇場』シリーズである。
特に、後に『仁義なき戦い』シリーズで世に知られる笠原和夫が脚本を書いた『人生劇場 新飛車角』(1964年)が素晴らしい。

この作品は戦中・戦後の平仮名の「やくざ」を巡る状況の変化を描いた作品として出色であり、尾崎士郎の原作を切り詰め、映画らしい表現へと昇華させている。

『人生劇場 新飛車角』は未だにDVD化されていないが、戦後日本を代表する映画として、私は「メディア史」に関する授業で必ずVHSで取り上げている。
冒頭の戦中のシーンからラストの戦後の荒廃まで、スピーディーな展開は見事という他なく、鶴田や佐久間の視線で、時代の奔流をその渦中で描いていく。

鶴田浩二、佐久間良子もこの時期が役者として全盛期だろう。未だ映画がメディア産業の中心だった時代に、才能ある監督と脚本家と役者が、三位一体で築いた不屈の名作である。

脚本家の笠原和夫の脚本については、以前に扶桑社のen-taxiに、「実録・共産党」と『日本暗殺秘録』について解説を書いた。
笠原は『仁義なき戦い』のようなヤクザ映画の脚本家として広く世に知られるが、『人生劇場 新飛車角』や『日本暗殺秘録』のような戦前・戦後を舞台にした庶民目線の作品にも深い味わいがある。
https://makotsky.blogspot.jp/2009/10/blog-post.html

沢島忠監督の『人生劇場 新飛車角』は、笠原和夫を育てた作品であったと思う。この一作を観るだけでも、沢島の映画監督としての資質の高さと、笠原の映画脚本家としての輝く才能が感じられる。

沢島忠は1970年代に入ると、ほとんど映画を撮る機会に恵まれず、舞台を中心としたキャリアとなる。最後の監督作が1977年の『巨人軍物語 進め!!栄光へ』で、主演が王貞治、長島茂雄である。

才能溢れるこの監督の作品をもっと観たかった、というのが訃報を聞いて、真っ先に思い浮かぶ感想である。特に晩年に計画していたという沢島版の「忠臣蔵」を観たかった。

才能ある人をフェアに評価する批評が、まともに機能してほしいと思う今日この頃である。