2024/07/14

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第4回 日本の黒い霧 謀略朝鮮戦争・門司港

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第4回(2024年7月14日)は、門司港を背景にした『日本の黒い霧』の最終回「謀略朝鮮戦争」を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「権力と対峙「国際感覚」育む」です。

『日本の黒い霧』は、GHQが内部に抱える対立や組織上の問題から、下山事件や松川事件、昭和電工事件やレッド・パージなどが派生したことを告発したノンフィクション小説です。最終回「謀略朝鮮戦争」で清張は、限られた資料の解釈だと自ら認めた上で、次のように記しています。

「朝鮮戦線で日本人が米軍に直接協力したことは否めない。<中略>彼らは、或は水先案内人となり、或は掃海作業員となり、或は操作要員となって協力した」と。つまり松本清張は、敗戦後の「未解決事件」を通して、GHQが外的な脅威をあおり、「日本国民」を朝鮮戦争に動員する方向に誘導したと考えました。

 現実の戦争に限らず、政治・権力的な党派争いや、偽情報が飛び交う情報戦も含めて、現代でもこのような「動員」が、日常の延長で行われていると思います。以前に三矢研究について記しましたが、清張は、独自に集めた資料や情報を駆使し、ジャーナリスティックな筆致で、戦後日本の生権力と対峙した作家でした。北部九州から朝鮮半島は近く、清張は朝鮮半島で従軍しているので、朝鮮戦争は『日本の黒い霧』で最後に向き合うべき、重要な題材だったのだと思います。

 西田藍さんとの直木賞対談は次週の掲載です。『松本清張はよみがえる』は増刷が決まり、2刷の修正を入稿して、現在、印刷中です。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1234573/

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 IAMCR(国際メディアコミュニケーション学会)で、クライストチャーチに滞在しました。冬で雨の日が続き、天気は悪かったですが、市街地には2011年2月のカンタベリー地震からの復興が感じられ、Riverside Market近辺のローカルなお店が魅力的でした。IAMCRは地域色があり、英米の大学が強い影響力を持つ国際学会とは異なって、ダイバーシティが感じられる点が良いです。メインの会場だったTe Pae Christchurch Convention Centreも良い施設で、国際会議に慣れたスタッフの対応も素晴らしかったです。最終日にニューブライトンの図書館で会ったガーナの研究者グループは「2日かけて来たかいがあったよ」と言っていました。

 WGの会合でも、前会長やWGのメンバーが、先進国の一部の大学や流行りのトピックに依存しない、ダイバーシティについて力説していました。ICTとコミュニケーション関連の分野、著作権・個人情報保護・ジャーナリストの人権など法に関わる分野、ポップカルチャーの分野など、Media Studiesは伸びしろがあります。私の発表も好評で、終了後も10人ぐらいの研究者から質問があり、特に若手からの質問が熱心で、日本の現代文学と映像作品への国際的な関心の高さを実感しました。

 英語での発表やコミュニケーションは、日本語で考えていることを客観的に整理したり、新しいヒントを得られるので、経験として価値が高いです。研究活動は手段が目的化しやすいので、新しい刺激を得られる機会はありがたいです。経由地のシドニーでも図書館に行ったり、将来の研究やサバティカルなど、知己の研究者から情報を得ることもできました。色々な国や地域の研究者と話をしましたが、訪日経験があり、日本の現代文化に関心のある人が、ひと昔前に比べて格段に増えていることを実感しました。

 冬のオセアニアから帰ってくると、日本の初夏は湿度が高くて疲れるので、家族で旬の「さくらんぼ狩り」にでも出かけようかと考えています。国外にいるとブラックチェリーをよく食べるので、桜桃の甘い実を採りたくなります。今回の発表でも言及した青山七恵さんの「かけら」(川端賞)が「さくらんぼ狩り」を題材にした作品でした。太宰治の短編「桜桃」も有名ですが、映画だとアッバス・キアロスタミの「桜桃の味」や、中国の農村を舞台にした「さくらんぼ 母と来た道」など、秀作があります。




2024/06/30

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第3回 ゼロの焦点・能登金剛

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第3回(2024年6月30日)は、能登半島を舞台にした代表作『ゼロの焦点』を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「戦後女性への思い 景色に投影」です。「戦後女性」という表題が少し気になりましたが、ちょうど「虎に翼」で「戦後女性」の群像が上手く描かれていることもあり、いつも通り担当者にお任せとしました。

 なお「文藝」掲載の「回想的自叙伝16」から引用した小倉の置屋の描写は、書籍化に際して削除されている箇所で、松本清張研究会でもお話しましたが、「私の発想法」などの講演録と合わせて、新しい松本清張像を考える上で、重要な一節だと考えています。

 清張作品の中で『ゼロの焦点』は、戦中に青年期、成人期(エリク・エリクソンの意味で)を迎えた登場人物を描いた系譜の作品で、「虎に翼」の寅子たちと同世代の女性が主人公です。私の叔母がこの世代で、「祭りの場」を書いた作家の林京子と高等女学校の在籍が重なるのですが、原爆投下直後の長崎のことを色々と話してくれました。『ゼロの焦点』を読むと、叔母の世代のエピソードを思い出しますが、叔父が陽気な人だったので(明治大学OB、三菱電機で出世、品薄だったファミコンを買ってくれた恩人)、個人的には『ゼロの焦点』ほどには、この世代の男女に、悲しいイメージは持っていないです。

 ちなみに「ゼロの焦点」の初出は、江戸川乱歩編集の「宝石」の1958年3月1日号です。当時の定価は150円、同年の2月1日に書籍の『点と線』が発売され、ヒットしていたこともあり、「宝石」の目次では横溝正史の「悪魔の手毬歌」と並んでトップ掲載でした。清張作品が掲載された時代の「雑誌のメディア史」については、先々、まとまった批評文を書く予定でいます。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1229094/

2024/06/23

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第2回 渡された場面・呼子

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第2回(2024年6月23日)は、佐賀県唐津市の呼子を舞台にした晩年の代表作『渡された場面』を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「玄界灘の魅力、今日に伝える」です。

 呼子は北部九州に住む人にとって日帰り観光で行く場所として人気があります。吉田修一さんの『悪人』でも、呼子のイカを食べる場面が重要な役割を果たしました。呼子が面する玄界灘は、世界有数の漁場といわれ、イカやサザエが美味しいです。西日本新聞社で「松本清張はよみがえる」の講演を行ったとき、アンケートで「好きな作品」に挙げていた方が多かったので、新連載の第2回で取り上げました。

「ばってん、魚の新しかものは嬉野でんが武雄でんが食べられるとよ。ここから朝の早かうちにトラックで海から揚がった魚ばどんどん運んどるけんね」など、佐賀の「裏事情」に通じた清張らしい、訛りを帯びた会話文が魅力的な作品です。

 次回は来週日曜の掲載で、西田藍さんとの直木賞予想対談は、7月中旬の掲載予定です。

玄界灘の魅力、今日に伝える 「渡された場面」 呼子(佐賀県唐津市)

松本清張がゆく 西日本の旅路(2)

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1226348/

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 今年のIAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)@クライストチャーチでは、Exploring inclusion of minorities in contemporary Japanese literature and visual worksという発表を行います。修士の時に三田の英文学専攻の演習を履修していたこともあり、たまに脱構築批評のテキストを読むのですが、今回はJonathan CullerのOn Deconstruction: Theory and Criticism after Structuralismと柄谷行人のOrigins of Modern Japanese Literatureを参照しています。

 Media Studies関連では、ハーバード・ロースクールの奇才で、Nudgeなど行動経済学の著作でも知られるCass Sunsteinが好みで、Going to extremes: How like minds unite and divide(なぜか未邦訳)を引きつつ、日本の現代小説とその映像化作品についてinclusion of minoritiesという観点から論じます。Cass Sunsteinは切り口の幅の広さが魅力で、来年出版予定のClimate Justiceも面白そう。

https://x.com/casssunstein

 近年、IAMCRは発表希望者が右肩上がりで(世界的にMedia Studies関連の研究者が増えているため)、査読やセッションの調整が大変だったよ、というメールが複数。南半球は真冬なので、NZLはベストシーズンではないですが、日本の梅雨よりは快適そうで、今週末からの滞在を楽しみにしています。

https://iamcr.org/christchurch2024

 AUSもNZLも米ESTAと同様に、スマホのアプリで渡航許可を有料で出していますが、日本もVISIT JAPANなどの渡航許可をオンラインで有料化して、新しい財源を作り、留学生や海外からの移住者の支援に回してほしいです。

2024/06/09

新連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第1回 半生の記・旦過市場

 西日本新聞の新連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」が2024年6月9日よりスタートしました。書籍化した『松本清張はよみがえる』(西日本新聞社)とは異なって、小説の舞台となった場所に着目した連載です。第一回は「北九州の台所」といわれる小倉を代表する商店街・旦過市場の近辺を舞台にした『半生の記』を選びました。表題は、「自伝的小説」舞台の出発点 「半生の記」 旦過市場(北九州市)です。

『松本清張はよみがえる』で取り上げた50作品と異なる作品も数多く取り上げていきます。西日本を舞台にした代表作については、前回の連載とは異なる視点で論じていきます。今月は3回の掲載予定ですが、その後は毎月1~2回のペースでの掲載になる見込みです。『松本清張はよみがえる』に引き続き、吉田ジロウさんの挿画にもご注目下さい。どうぞよろしくお願いいたします。

「自伝的小説」舞台の出発点 「半生の記」 旦過市場(北九州市)

松本清張がゆく 西日本の旅路(1) 

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1221055/

2024/06/04

三田評論とReal Soundで『松本清張はよみがえる』ご紹介いただきました

 三田評論の2024年6月号の「執筆ノート」に『松本清張はよみがえる』の紹介文を掲載頂きました。三田評論は明治31年(1898年)創刊の慶應義塾の機関誌で、120年ほどの歴史を有する雑誌です。『松本清張はよみがえる』と関係付けて、福田和也先生のことや『福翁自伝』と松本清張の『半生の記』の比較などについて、簡潔にまとめています。福田先生の師匠の江藤淳も含めて、この原稿に登場する人物は皆、九州北部に縁があり、福澤先生と共に論じられたことが感慨深いです。

https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/literary-review/202406-2.html

 若手の頃に慶應義塾でTA・助手・助教・研究員・客員研究員・兼担講師・非常勤講師の仕事に就けたおかげで、その後の専任教員としてのキャリアが開けました。歴史ある「三田評論」に寄稿できて光栄です。以前にSFCスピリッツにも寄稿する機会を頂いたので、慶應義塾大学SFCネクスト30募金(国際学生寮・Hヴィレッジ)に寄付をして、家族で国際学生寮も見学させて頂きました。

https://www.sfc.keio.ac.jp/magazine/012488.html

 Real Sound(2024年6月3日)では、書評家のタニグチリウイチさんに、要点をおさえた良い書評を頂きました。ありがとうございます。

松本清張、なぜ再注目? 『松本清張はよみがえる』『松本清張の昭和史』に読む、現代的価値

https://realsound.jp/book/2024/06/post-1677543.html

 ゲンロンカフェでの「松本清張を発掘せよ」の冒頭部分の動画は下のリンクでご覧いただけます。原武史先生の鉄道と昭和維新、近代皇室に対する思いを対面で受け取ることができ、有難い機会でした。與那覇潤さんの司会の切れ味はさすがで、多岐にわたるトピックへの横断的な知性の魅力を改めて感じました。4時間半の話の随所に新鮮な議論があり、鉄道と昭和維新、皇室を切り口とした清張論の現代性とポテンシャルの高さを感じました。

 6月1日には松本清張研究会で藤井康江名誉館長をはじめ、元松本清張担当の編集者の方々や北九州市の清張記念館の方々、来場者の方々と講演を通した交流ができ、こちらも良い機会でした。松本清張の連載を続けていく上で、これ以上ない充実した週末でした。ありがとうございます。

https://www.youtube.com/watch?v=OhzCMSpk-FE

2024/05/20

読売新聞朝刊で『松本清張はよみがえる』をご紹介頂きました

 読売新聞朝刊(2024年5月20日)で『松本清張はよみがえる』をご紹介頂きました。保坂正康氏の『松本清張の昭和史』と並べてご紹介頂き、嬉しい限りです。

 松本清張については、昭和史関連の研究を、ゲンロンでご一緒する原武史先生と保坂正康氏が長らく牽引されてきましたので、感慨深いです。原先生と與那覇潤さんとのゲンロンの鼎談と、松本清張研究会での講演と、6月9日スタートの西日本新聞の新連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」の準備に力を注ぎたいと思います。

 読売新聞のカラーページでの紹介だったこともあり、珍しくAmazonで「ベストセラー」のタグが付いていました。2刷が見えてきたかもしれません。

本よみうり堂「松本清張 今日的意義問う…分析する書籍刊行続く」(2024年5月20日)

https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/articles/20240519-OYT8T50062/



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 ダルビッシュ有投手が日米通算200勝!「日本全体が自分を優しく育ててくれた」というコメントも良かったです。NHKが羽曳野市に中継を入れていたので、喜んでいるお母さんの姿も見れました。十数年前に結婚した時、日ハムの球団会長だった今村純二氏経由でサイン色紙を頂いたこともあり、MLBでの活躍を楽しみにみてました。今村氏は長崎出身で、日ハムの北海道移転と、地域に根ざしたファン文化の醸成に尽力された方で、ダルビッシュ選手のドラフト時に球団社長でした。多彩な変化球投手として、冷静沈着な先発投手として、北海道・日ハムがダルビッシュ選手を育てたと思います。史上最高の日本人投手であることは間違いなく、野茂英雄氏が持つメジャー123勝の記録超えも期待しています!
Pitching Arsenal: Yu Darvish
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「文學界」編集部より、文学フリマ東京で販売した小冊子をご恵贈頂きました。特集は「大解剖! 文學界新人賞」で、癖のある玄人らしい文章が多く興味深く拝読しました。小冊子は会場で完売したそうで、後日、電子版も販売するそうです。現代でも「文學界」の同人雑誌評で西村賢太が注目されてデビューしたり、一穂ミチさんが同人誌の二次創作で経験を積み、BLと現代文学を架橋したように、文学フリマを通して同人誌と文芸誌の関係が深まることは、とても大事なことだと思っています。「文學界」のクリアファイルは、先々、私の授業で良い文芸批評を書いた学生にプレゼントします。

2024/05/04

ゲンロン「松本清張を発掘せよ」2024年6月2日

 ゲンロンカフェで原武史先生と與那覇潤先生と「松本清張を発掘せよ」というトークイベントを行います(2024年6月2日・日曜日15:00~)。ゲンロンの説明文の通り、原先生は松本清張研究の第一人者で、『「松本清張」で読む昭和史』や『松本清張の「遺言」』などの素晴らしい著作があります。與那覇さんは、最新作の『危機のいま古典をよむ』で清張の「実感的人生論」について論じており、『平成史』だけではなく、昭和史にも造詣が深く、お二方との議論は表題に相応しいディープなものになると思います。

 今回のイベントでは『点と線』『ゼロの焦点』『日本の黒い霧』『砂の器』『昭和史発掘 2・26事件』『神々の乱心』を中心に取り上げます。清張の昭和史系の大作と長編の代表作を網羅した重量級のラインアップで、入念な準備をしつつ、楽しみにしています。日曜のお昼の開催で参加しやすいかと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。昨年の司馬遼太郎のイベントも好評でした。

https://genron-cafe.jp/event/20240602/


 2024年6月1日・土曜日は14時から、松本清張記念館の第47回松本清張研究会(東京学芸大学)で講演を行います。表題は「清張作品の「謎」と「秘密」に迫る ― 『松本清張はよみがえる』を手引きに」です。ゲンロンとは異なるメディア史研究寄りの視点から、『松本清張はよみがえる』で参照した講演録、全集所収の自作論・月報・エッセイ、『半生の記』(「文藝」初出の「回想的自叙伝」を含む)などの資料をもとにした話をしながら、過去の「松本清張研究」の成果(創刊号~第二十四号、記念館図録など)に敬意を示しつつ、批評の方法論、作家としての生き方、生の題材を扱う「ジャーナリスト」としての松本清張の価値などについてお話する予定です。

https://x.gd/g9GZ1

 西日本新聞の新連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」は、6月9日スタートの予定です。作品の舞台となった場所に着目した批評文の連載です。掲載頻度は前の連載よりも緩やかで月に1~2回の予定です。『松本清張はよみがえる』(西日本新聞社、2024年)も好評販売中です。

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 ChatGPT 4oについて、Excelでニュースのメタデータを読み込ませて、自然言語解析を指示すると、英語はPythonの正規表現で、日本語はJanomeで解析して、人手の編集次第で使えそうなデータが出力されるので、面白いです。表記のゆらぎや固有名詞(proper noun)の判別は、「はて?」という感じで、限界がありますが、学習データが増えれば、将来的に改善しそうです。地名を用いたマッピングについては、私の研究用途ではいまいちですが、Python-GeoPandasを使って頑張っている感じはします。TF-IDFの解析は断られましたが、30秒ぐらいでPythonの処理コードを書き出してくれました。メタデータの作成と入力文章の工夫次第で、将来的に個人研究の幅が広がりそうです。
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 最近は、学生と一緒に読むのにちょうどいい難易度の認知バイアスに関連する英語・日本語の文献を調べています。メディア・ジャーナリズム研究(元々は社会心理学との関係が深い)と行動経済学・ガバナンス論の間ぐらいで、学部で学んだ心理学の知見を、現代的なメディア論にアップグレードして、授業に取り入れたいと考えています。7月のIAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)の発表準備にもそろそろ取り掛からなければ。。
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 2週間ほどかけて『昭和史発掘』1巻~9巻を読み返しました。2.26事件以外でも軍隊内の部落差別を告発した「北原二等卒の直訴」や、甘露台こと大西愛治郎の「天理研究会事件」(ほんみち不敬事件)など、「昭和維新」の裾野の広さを感じさせる題材が面白かったです。詳細は上のゲンロンのイベント「松本清張を発掘せよ」でお話します。

2024/04/26

新潮社「考える人」の連載「たいせつな本」で松本清張の代表作10冊を紹介しました

 新潮社の「考える人」の連載「たいせつな本 ―とっておきの10冊―」の20回目を私が担当しました。表題は「松本清張はよみがえる!「嫉妬」と「格差」の時代を生き抜くための10冊」です。清張作品のベスト10を新潮文庫を中心に紹介していますが、『無宿人別帳』『球形の荒野』『Dの複合』を挙げているのは、過去の清張作品の評者と比べても、珍しいかも知れません。お時間がありましたら、ぜひご一読頂ければ幸いです。

https://kangaeruhito.jp/article/758925

 プロフィール欄に掲載の通り、2024年6月より西日本新聞で、新連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」(仮題)を担当予定です。こちらの詳細はまた後日。『松本清張はよみがえる 国民作家の名作の旅』関連では、週刊読書人の5月3日号(4月26日合併)に「著者から読者へ」の原稿が掲載されました。あとは母校の雑誌(発行部数が2万と知り、雑誌不況の中、驚きました)と、近々、新聞の取材記事が出る予定です。

2024/04/05

Newsweek日本版に『松本清張はよみがえる』の記事が掲載されました

 Newsweek日本版(2024年4月5日)の「シリーズ日本発見」に『松本清張はよみがえる』の記事が掲載され、Yahoo!ニュースにも転載されました。『松本清張はよみがえる 国民作家の名作への旅』(西日本新聞社 )より「はじめに」を一部抜粋した内容(表題やリード文は編集部作成)です。

 なぜ私たちは松本清張に励まされるのか?...41歳でデビューした作家が描いた「不公平な時代」を生きる人間のまがまがしい魅力

https://www.newsweekjapan.jp/nippon/season2/2024/04/492577.php

Yahoo!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/articles/285d18ba948663f1515b6f5aacd3d5d2e421c815

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「虎に翼」を観ていたら、プロデューサーがNHKの石澤かおるさんで、2020年の秋学期に、英語のジャーナリズムのゲスト講義で、お話しを頂いていました。その時は「あさイチ」や日本の美容番組の海外輸出の話が中心でしたが、細やかな配慮の行き届いた、カラフルな番組作りが印象的で、「虎に翼」のキャスティングや演出にも、石澤さんの個性が出ていると感じています。韓非子から採った表題も上手いです。イントロのアニメーションも鮮やかで、市井の人々の描き方に、朝ドラとして新しさを感じています。個人的には、三淵嘉子が戦争で書生の夫や両親を亡くした後、再起をはかる姿や、判事として活躍の場を切り開いていく姿(原爆裁判や家庭裁判)をどう描くのか、楽しみにしています。歳をとると、物語よりも時代考証に関心が向いてしまいますが、それも映像を観る楽しみですね。

2024/03/18

佐藤正午『冬に子供が生まれる』書評/北海道新聞

 北海道新聞に佐藤正午さんの話題作『冬に子供が生まれる』の書評を寄稿しました。7年ぶりの新作で、直木賞受賞第一作です。直木賞を受賞し、第一作を7年も出さなかった作家は、他にいないのではないかと思います。この間に映画は2本作られていて、『鳩の撃退法』に登場する作家の津田は、直木賞を2年連続で受賞しています。ヴォネガット、ナボコフ、ジェームス・M・バリー、村上春樹、中井久夫と、短文ですが、様々な書き手の作品を思い浮かべながら、論じました。
 私の息子も冬に生まれましたが、本作に記されているような「メールによる事前連絡」は無かったですね。子供たちとヴォネガットや佐藤正午の「時空の歪みを感じさせる小説」について話す日が、いつか来るでしょうか。
 佐藤正午さんは佐世保からほとんど出ずにプロとして書いて来られた作家です。直木賞の受賞会見も電話で、山田風太郎賞の時も欠席でした。近作の小説のテーマが、偽札→生まれ変わり→UFOというのもユニークで、佐藤さんのように地方在住で「個性の強い作家」が少なくなりました。ここ3作のモチーフに、作家らしい実存を賭けたリアリティを感じます。札幌とも佐世保とも解釈できる土地を舞台にした、北海道新聞にぴったりの本で、良い機会でした。同じ書評欄には上野千鶴子先生と千葉一幹先生が寄稿されていました。

<書評>冬に子供が生まれる 佐藤正午著 皮肉こもった「文明批評」


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 IAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)のカンファレンスの査読を通りましたが、開催地のニュージーランド・クライストチャーチの7月は冬で、最高気温が10度前後、冬装備が必須とか。発表は、日本の地方を舞台にした現代文学とその映像化作品のマイノリティの表象に関する内容で、査読者1が中の上ぐらいの評価で、査読者2がほぼ満点の評価でした。平均するとほどよいスコアで「知足者富 不失其所者久」(老子)という感想。IAMCRはEx Ordoを使っているので、査読結果のフィードバックが早くて良いです。
 7月に冬というのは調子が狂いますが(円安もストレスですが)、カンタベリー大学に滞在しながら、他国の研究者と話をするのを楽しみにしています。IAMCRはUNESCOの後押しで1957年にできた国際学会で、国連の各部局に関係するセッションも多いですが、昨今の国際情勢にメディア・コミュニケーション研究がどのように寄与すべきか、毎年問われているように感じます。
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 春休みは『松本清張はよみがえる』に関連した原稿×2、講演の準備や、電通の依頼で日本企業の海外CMの監修に取り組むなど。骨折と脱臼で寝てる時間が長くなり、体重が増えたので、塩分や糖分やアルコールの摂取量を抑えつつ、リハビリの強度を上げていきたいです。
 リハビリのモチベーションを上げるためにNFLの選手のトレーニング動画をみることが多いのですが、同じジャンルでは、ロッキーのダイジェスト動画が英語圏で人気です。フィラデルフィアの街並みが心地よく、イタリア市場の人情ランニングや、カトリック教徒らしい十字架スクワット、生卵のジョッキ飲みや、冷凍庫の肉塊へのプロレタリア・パンチ(そんなことをやっていいのか)など、スタローンの脚本らしい、味わい深いシーンが多いです。スタローンは父親がイタリア系のカトリック教徒です。
 ただスタローンの筋肉は、どう見てもボクサーのそれではなくボディービルダーのそれです。「ランボー2 怒りの脱出」や「ランボー3 怒りのアフガン」の時も思いましたが、兵士ではなく、完全にボディービルダーです。「ボディービルダーは助けてくれるのか?」という疑問を、弓矢でヘリを爆破するなどの大活躍で払拭してくれます。ちなみに「怒りのアフガン」は、米軍にタリバンが味方する姿を描いていて、この映画はその後の国際情勢について色々と考えさせる内容でもあるため、一部では評価が高いです。何れにしてもスタローンの筋肉は固すぎるわけですが、ポール・マッカートニー似の笑顔がその固さを和らげるので、ロッキーシリーズは、突っ込みどころも含めて、トレーニングのモチベーションを上げるのに「ちょうど良い」のだと思います。