2018/05/13

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第七回 佐藤泰志「海炭市叙景」

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」第七回(2018年5月13日)では、佐藤泰志の『海炭市叙景』について論じています。佐藤泰志は発表する作品の多くが文学賞にノミネートされた作家ですが(芥川賞5回、三島賞1回)、バブル経済の只中の1990年に、妻子を残し、41歳で自殺しています。文芸誌の新人賞出身ではないため、存命時には作品そのものが中央の文芸誌にあまり掲載されていませんでした。

ただ『海炭市叙景』は、現代文学を代表する水準の作品です。この作品は「函館」をモデルにした海炭市を生きる人々の描写が実に鮮やかで、彼らの地に足の着いた生活の描写が味わい深い優れた作品です。表題は「地方の閉塞 先取りし描く」です。

近年、佐藤泰志の作品は、再評価が進み、死後、絶版になっていた作品が復刊したり、「海炭市叙景」を含む3作品が映画化されています。以前に函館市文学館を訪れた時にも、特設コーナーが設けられていて、角張った癖の強い、佐藤泰志らしい原稿が飾られていました。その文字にも彼の不器用な正確が滲み出ていて、涙が出ました。

今年、私は佐藤泰志が亡くなった41歳になります。彼が当時、どのようなことを考えていたのか、彼の晩年の作品に、文学的な表現として良い意味での「閉塞感」が感じられることは確かです。ただ『海炭市叙景』は、彩り鮮やかに人々の人生の陰影を暖かく照らし出した作品で、この作家の資質の高さと将来性を感じさせる作品だったと思います。
もっと多くの人に読まれてほしい作品ですので、少しでもご関心が向くようでしたら、ぜひご一読下さい。