2018/05/28

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第九回 矢作俊彦『ロング・グッドバイ THE WRONG GOODBYE』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」第九回(2018年5月27日)では、矢作俊彦の『ロング・グッドバイ THE WRONG GOODBYE』について論じています。この作品は発表時にさほど話題になりませんでしたが、戦後の日米関係のあり方を問い返すような深みのある内容で、現代日本を代表するハードボイルド小説だと思っています。表題は「皮肉と愛情で軍港描く」です。

内容は、米軍の利権が複雑に入り組んだ横浜〜横須賀の「闇」を、複雑なアイデンティティを持つ「アメリカの友人」の姿を通して、アメリカと日本の双方と距離を置いた視点から巧みに描いたものです。愛情と皮肉の双方がたっぷりと織り込まれた横浜と横須賀の描写は、レイモンド・チャンドラーが『ロング・グッドバイ』で描いたロサンゼルスと同様に、非常に魅力的で、異彩を放っています。若い映画監督を起用して、新しいテイストで映画化してほしい作品です。

「現代ブンガク風土記」も次回で10回目です。しばらくは東京近郊の「郊外と一括りにされる異なる場所」を舞台にした現代小説を取り上げていく予定です。