西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第54回 2019年4月14日)では、平野啓一郎『ある男』について論じました。表題は「現代人の『成熟と喪失』」です。
この小説は、横浜で弁護士事務所を営む38歳の城戸の視点から、宮崎県の西都市を想起させる場所で起きた「文房具屋の里枝ちゃんの旦那」の死亡事故の謎を解明していく内容です。「入れ替わった人間」に関わる様々な人々の視点から「失われた時」を巡って、登場人物たちの内的な時間を掘り下げる展開が、小説に深みを与えています。
ネット上で「戸籍」の売り買いが行われる時代に、新しいアイデンティティを持ちたいと考える人々の現実感を反映した作品と言えます。
この作品で描かれる「人生の死角」と呼べるような場所には、文学が描くべき「余白」が感じられます。平野啓一郎はこのような「死角」を通して、普通の家庭で生まれ育つという「一億総中流の時代の幻想」が崩壊した後の時代の現実感を描いているのだと思います。分量以上に読み応えのある作品です。
この小説は、横浜で弁護士事務所を営む38歳の城戸の視点から、宮崎県の西都市を想起させる場所で起きた「文房具屋の里枝ちゃんの旦那」の死亡事故の謎を解明していく内容です。「入れ替わった人間」に関わる様々な人々の視点から「失われた時」を巡って、登場人物たちの内的な時間を掘り下げる展開が、小説に深みを与えています。
ネット上で「戸籍」の売り買いが行われる時代に、新しいアイデンティティを持ちたいと考える人々の現実感を反映した作品と言えます。
この作品で描かれる「人生の死角」と呼べるような場所には、文学が描くべき「余白」が感じられます。平野啓一郎はこのような「死角」を通して、普通の家庭で生まれ育つという「一億総中流の時代の幻想」が崩壊した後の時代の現実感を描いているのだと思います。分量以上に読み応えのある作品です。