西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第55回 2019年4月21日)では、辻村深月の直木賞受賞作『鍵のない夢を見る』について論じました。
この作品集で描かれる5人の女性たちは、何れも青春、恋愛、就職、結婚、育児など、一般に良いイメージで語られる人生の節目となるイベントと「孤独」に格闘しています。そして5つの短編のタイトルには、各女性たちの闇や孤独を反映するように、「泥棒」「放火」「逃亡」「殺人」「誘拐」という2文字の物騒な言葉が記されていますが、彼女たちの犯罪との関わり方は多様です。
辻村が生まれ育った山梨県の石和町(現・笛吹市)を想起させる「石蕗(つわぶき)町」という地名や、辻村が進学した千葉大学を想起させる「芹葉大学」という大学名が使用されていることを考えれば、辻村深月の「私小説」に似た短編集だと考えることができます。文庫版に収録されている林真理子との対談の中で、辻村は自身の出産と子育ての経験を踏まえて本作の一部を書いたことを明かしています。
この短編集で辻村深月は、地方の生活に内在する親密感と閉塞感の双方に着目しながら、親しい人間関係の中に横たわる「断層」を、5人の女性の視点から浮き彫りにしています。直木賞の受賞に相応しい、作者の成熟した筆力が伝わってくる短編集だと思います。
この作品集で描かれる5人の女性たちは、何れも青春、恋愛、就職、結婚、育児など、一般に良いイメージで語られる人生の節目となるイベントと「孤独」に格闘しています。そして5つの短編のタイトルには、各女性たちの闇や孤独を反映するように、「泥棒」「放火」「逃亡」「殺人」「誘拐」という2文字の物騒な言葉が記されていますが、彼女たちの犯罪との関わり方は多様です。
辻村が生まれ育った山梨県の石和町(現・笛吹市)を想起させる「石蕗(つわぶき)町」という地名や、辻村が進学した千葉大学を想起させる「芹葉大学」という大学名が使用されていることを考えれば、辻村深月の「私小説」に似た短編集だと考えることができます。文庫版に収録されている林真理子との対談の中で、辻村は自身の出産と子育ての経験を踏まえて本作の一部を書いたことを明かしています。
この短編集で辻村深月は、地方の生活に内在する親密感と閉塞感の双方に着目しながら、親しい人間関係の中に横たわる「断層」を、5人の女性の視点から浮き彫りにしています。直木賞の受賞に相応しい、作者の成熟した筆力が伝わってくる短編集だと思います。