西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第148回 2021年3月7日)は、高橋源一郎の『恋する原発』を取り上げています。表題は「『揺れ』感じ続ける日本の姿」です。震災・原発事故から十年の節目ということもあり、しばらく本連載では「震災・原発事故文学」を取り上げる予定です。
『恋する原発』は2011年の原発事故から約7か月後に文芸誌「群像」に発表され、性的な表現を通して原発事故を風刺する「問題作」として話題となりました。確かに、著者の高橋自身も冒頭に記している通り「不謹慎すぎます。関係者の処罰を望みます」と言われてしまうような内容なのかも知れません。
ただ本作には震災・原発事故後の人間の性=生のあり方について批評的な内容も多く盛り込まれています。例えば米同時多発テロ直後に「時に、テロを必要とする者もいるのではないか」と問いかけたスーザン・ソンタグの一節が引かれ、福島第一原発前での「不謹慎なデモ」が描かれる内容には、作家らしい反骨心が感じられます。
個人的には『さようなら、ギャングたち』や『ジョン・レノン対火星人』など高橋源一郎の初期作品のような「小説で社会の急所を突いてやろう」というギラギラした野心が感じられ、好きな作品です。震災や原発事故の経験を悲劇として美化することに抗い、不謹慎な喜劇として震災と原発事故を描くことを試みた、原発事故10年後に読み返されるべき「反小説」だと思います。
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高橋源一郎『恋する原発』あらすじ
震災と原発事故の直後の「自粛」を強いる「空気」の中で、原発事故と性的な表現を絡めて描いた作品。震災の揺れを感じた時、おれは「いままでたまったツケを払わなきゃならんのだ」と思い「チャリティーAV」に挑む。AV制作会社で働くおれの日常と周囲の人々の猥談やを通して、小説家らしく、現代日本の「表現の自由」、「言論の自由」の臨界へ切り込む。