西日本新聞の毎週日曜の連載「現代ブンガク風土記」が150回の節目を迎えました。手前味噌ですが、ブロック紙以上の文芸批評の新聞連載(時評を除く)としては、分量と期間の上で最長の部類に入ると思います。タイトルは長崎市立磨屋小学校の先輩であり、慶應義塾大学で折口信夫に師事した山本健吉の『現代文学風土記』を参照したものです。私の実家の近くに住んでいた石橋忍月・山本健吉父子の批評や、山本が吉田健吉や中村光夫らと戦前にはじめた「批評」(第二期)を、現代的な形で継承したいという思いもあります。連載中に山本が教鞭を執った明治大学に公募で移籍するという縁にも恵まれました。
連載で取り上げている作品以外にも多くの現代小説を読んでいますので、文字通り小説漬けの日々です。先々、この連載は日本語の著作として刊行する予定ですが、当初から英訳を意識した内容でもあり、海外の友人たちの力を借り、何かしらの形で現代日本の小説の多様性と水準の高さを、英語版の著作としても伝えたいという思いを持っています。この連載を長崎の原爆被害を題材としたカズオ・イシグロの『遠い山並の光』からはじめ、江藤淳の毎日新聞の文芸時評と異なる書き方をしているのはこのためです。志半ばですが、4月から4年目を迎える「現代ブンガク風土記」を、引き続きよろしくお願いいたします。
「現代ブンガク風土記」(第150回 2021年3月21日)は、森絵都の「震災以後」の日常を描いた短編集『漁師の愛人』を取り上げています。表題は「人々に生じた震災の余波」です。東日本大震災後の2011年から2013年にかけて書かれた作品で、子供から老人まで様々な人物の視点や感情を通して、東日本大震災が日常に与えた「余波」や「余震」を、独自の視点から炙り出しています。
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