西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第7回(2022年9月19日)は、初期の名短編「地方紙を買う女」について論じています。担当デスクが付けた表題は「情報格差手掛かりに あぶり出す戦争の影」です。姫野カオルコさんの直木賞受賞作『昭和の犬』とのmatch-upです。田村正和と広末涼子、佐野史郎のドラマ版「地方紙を買う女」も面白そうです(味のあるキャスティング)。
松本清張の昭和30年代の作品の特徴は、戦後が終わり、高度経済成長の時代に足を踏み入れた日本が抱えた「負い目」を炙り出す筆致にあります。「地方紙を買う女」が発表されたのは昭和32年(1957年)の4月です。同月にはソニーの前身となる東京通信工業が世界最小のトランジスタラジオを発売し、世界企業となる礎を築き、同月に売春防止法が施行されて風紀の取締りが強化されるなど、1956年度の「経済白書」に「もはや戦後ではない」と記された現実が到来しています。
ただ清張が本作で描くのは、シベリア抑留された夫の復員が依然としてかなわず、「戦争の影」を内に抱えた登場人物たちの姿です。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/989826/
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2022年10月1日(土)の青来有一さんとの対談(九州芸術祭文学カフェ@長崎県美術館)は、先週の西日本新聞の告知後に、予定席数のご予約を頂きました。ありがとうございます。広めの会場でゆとりがあり、予定より多めに受け付けてますので、長崎の方はぜひお申込みください。谷崎賞・芥川賞作家・青来有一さんと、吉田修一さん、カズオイシグロさん、村上龍さん、佐藤正午さんなど長崎の作家の代表作について論じる、濃密な内容になる見込みです。西九州新幹線の開業を、現代文学で言祝ぎましょう。