西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第9回(2022年9月26日)は、清張の未完の遺作『神々の乱心』について論じています。担当デスクが付けた表題は「新興宗教通して描く 見えざる宮中の暗部」です。新興宗教との関連で、担当デスクに前倒しのリクエストで(苦労して)書いた原稿で、「日本暗殺秘録」「昭和の天皇」(未映画化)「仁義なき戦い」などの脚本家・笠原和夫とのmatch-upです。文庫の上下で千ページ近いこの作品について4枚弱で論じるのはなかなか大変でした。
満州事変が起きた2年後の1933年の日本を舞台に、新興宗教・月辰会研究所と宮内省の女官たちの関係を創作的にひも解いた作品で、一部の識者には高く評価されていますが(原武史先生の歴史的な文脈を補足した見事な批評がありますが)、普通に小説として読むと評価が分かれる作品だと思います(82歳の作家の作品としては間違いなく凄いです)。1960年代に発表された作品のように、めくるめく事件が引き起こされるスリリングな小説ではないですが、新興宗教を通して昭和維新期の不穏な空気を巧みにとらえています。
神器を用いた「シャーマニズムの信仰」の根源に迫る内容で、大正天皇の妃である貞明皇后と、昭和天皇の妃である香淳皇后の対立を創作的に織り込むなど、一般にタブー視されてきた大正~昭和初期の「皇室内の対立」について、切り込んでいます。「昭和史発掘」と同じく週刊文春の連載で、週刊誌の連載を執筆しながら82歳の生涯を閉じた点に、松本清張の物書きとしての気魄が感じられます。
時代は軍人や超国家主義者や宗教家などが国家改造を目指した昭和維新の最中で、前年の1932年には血盟団事件が起き、井上準之助前蔵相や三井財閥を率いる団琢磨が暗殺され、その後、五・一五事件が起き、犬養毅首相が暗殺され、政党政治が終わりを迎えていた頃です。原稿を書きながら、みすず書房の『現代史資料』を毎週1巻ずつ読んでレジュメを書いていた院生時代のことを思い出し、新興宗教と近現代日本の関係について、改めて考えさせられました。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/993266/
*******
所属学会(IAMCR International Association for Media and Communication Research)がすべての会員を対象に下のようなメンタル・ヘルスに関する調査をアナウンスしていて興味深かったです。LMU München(ミュンヘン大学)とAarhus University(オーフス大学)のチームが進めているサーベイで、調査対象はポスドク研究者だけではなく、すべての年齢のテニュア教員を含む「Faculty members and PhD students around the world」です。回答してみたところ、質問そのものは目新しいものではなく、臨床心理学で一般的な量的調査でしたが、複数の国際学会で実施しており、大規模なデータが出ると思うので、調査結果を参考にしたいと思います。
国際的にはメディア研究は心理学と近いので、よいサポートだと思いました。考えてみれば、ほぼ毎年参加していたIAMCRで、相当な時間をコミュニケーションやネットワーキングに費やしていた訳で、「mental health issues, including anxiety, depression, and burnout」が生じているという記載も、理解できます。新型コロナ禍で、国際共同研究や役職等での手伝いも、ストレス軽減のため断らざるを得ず、こういう調査に至る状況はどの国も同じだと実感しました。
https://iamcr.org/news/mental-health-survey
Mapping the State of Mental Health of Media and Communication Scholars
Dear members of IAMCR,
Recent evidence on the state of mental health among academics suggests that we need to be concerned. Faculty members and PhD students around the world run a considerable risk of developing mental health issues, including anxiety, depression, and burnout, at some point in their career. The structural conditions of academic work, such as high publication pressure, fierce competition, and a culture of constant evaluation, may well contribute to the problem; and the pandemic has clearly intensified it.
As an association of scholars, IAMCR wants to take these concerns seriously. In order to identify adequate responses to the problem, however, we first need to get a sense of the scale of the problem in our field...