西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第5回(2022年9月7日)は、清張の大ヒット作『点と線』について論じています。担当デスクが付けた表題は「時代の空気と欲望 列車で描くミステリ」です。阪急今津線を舞台にした、有川浩さんの『阪急電車』とのmatch-upです。
福岡県の香椎の海岸で起きた怪死事件の謎に迫った松本清張の初期の代表作です。夜になると人気が少なく、足跡が残らない「岩肌だらけの香椎海岸」を舞台に、某省の課長補佐代理と東京・赤坂の割烹料亭で働くお時の「心中事件」が描かれます。香椎海岸も、現在は美しい場所になりました。
本作は時刻表を用いたトリックで広く知られていますが、博多弁と標準語の違いに着目した推理の進め方や、国鉄香椎駅と西鉄香椎駅の「中途半端な距離」に着目した男女の「誤認」をめぐる「土地に根差したトリック」も面白いです。西は福岡から北は札幌まで複雑に張り巡らされた「時刻表トリック」がスリリングで、松本清張の名を世に広く知らしめた出世作と言えます。