2023/02/10

「没後30年 松本清張はよみがえる」第35回『歪んだ複写』

  西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第35回(2023年2月10日)は、朝日新聞に20年間務めた松本清張らしく、警察や探偵ではなく、新聞記者が殺人事件の謎を解明していく『歪んだ複写』について論じています。担当デスクが付けた表題は「税務署員の贈賄暴く 記者たちの粘り強さ」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。元新聞記者の主人公が、人気ゲームを開発した女性の失踪事件を解明していく塩田武士の『朱色の化身』とのmatch-upです。

 日中戦争が勃発した1937年、朝日新聞社は大陸の動向を知るための「前線基地」として小倉市に九州支社の新社屋を建設しました。松本清張が朝日新聞社で働き始めたのはこの年です。新婚だった清張は家族を支えるべく、高等小学校卒の履歴書を面識のない支社長に送り、仕事を得ました。同僚だった岡本健資は「こんな入社の仕方をした男は、東西の朝日新聞社員の中でも、おそらく彼一人ではないだろうか」と述べています。清張は亡くなるまで製図台の上で原稿を書いていましたが、この執筆スタイルは新聞社で広告の版下を描いていた頃に身に着けたものです。

 1960年に所得額で作家部門1位になった清張の「高額納税者らしい怒り」が伝わってくる内容です。当時、一部の税務署員は、金品を贈与されたり、接待を受ける見返りに、税金を減額したり、納税期日を遅らせたり、差し押さえの物件の便宜を図るなど、様々な汚職に手を染めていました。本作は税務署員の悪行を「社会派ミステリ」として暴いた内容で、松本清張らしく同時代の社会の腐敗を告発した「問題作」と言えます。

 連載35回を迎え、松本清張の代表作を大よそ網羅してきました。高度経済成長期の作品が多めですが、晩年の秀作も厳選して取り上げていきます。映画・ドラマ化された「忘れられた名作」も取り上げていきます(個人的に昭和の日本映画が好きなので、中古で収集したマニアックな映像作品にも言及しつつ、メディア史的な文脈も織り込んでいきます)。骨折の影響で終盤の進行が遅れ気味ですが、松本清張が残した仕事(清張山脈)の大きさに、日々、勇気付けられています。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1052085/

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 今週末のSuper Bowl@Phoenix, Arizonaは、初のアフリカ系QBの対決(Patrick MahomesとJalen Hurts)で、二人のQBの平均年齢がこれまでで最も若いカードとなりました。多彩なパスとランで「新時代」を感じさせる第1シード対決で、誰もが納得の好カード。「新時代」のSuper Bowlとしては、スーパーマーケットのバイトを辞めてプロになったKurt Warnarと、ドラフト6巡199番目、4番手のQBから這い上がった若きTom Bradyが対戦した、同時多発テロ直後の2002年のSBを思い出します。SBは世界で最も視聴者数の多いメディア・イベントということもあり、ハーフタイムショーやCM、街の中継も含め、楽しみにしています。college footballのGame Dayも含め、アメリカらしい「地域行事」で「グローバル・イベント」と言えます。

Kansas City Chiefs vs. Philadelphia Eagles | 2023 Super Bowl Game Preview