2023/04/04

「没後30年 松本清張はよみがえる」第40回『内海の輪』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第40回(2023年4月4日)は、考古学を専門とする大学助教授の宗三が、かつて兄嫁だった美奈子と逢瀬を重ね、窮地におちいっていく人気作『内海の輪』について論じています。担当デスクが付けた表題は「互いの人生破壊する 込み入った恋愛感情」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています(だんたん週刊誌風になっている気が。。)。西伊豆を舞台に、新しい時代の女性らしい人生観を示した吉本ばななの出世作『TSUGUMI』とのmatch-upです。

 本作は岩下志麻と中尾彬の出演で映画化され、日本のサスペンス映画の型を作った作品と言えます。「危険は考えられた。知った人に目撃されることだけではない。ぐんぐん圧してくるような女の情熱だった」という宗三の心情が、二人の恋愛の生々しさを物語っています。「宗三の奥深い感情の微細な粒が女の感覚の光線に当てられて浮かび、それを彼女は素知らぬげに集めて眺めながら微笑していた」という一節に、二人の関係の複雑さが集約されています。

 宗三が弥生時代の腕輪である「ガラス釧(くしろ)」を、美奈子と最後に会った蓬萊峡で見つけたことが、宗三の運命を左右していく筋書きが、考古学に造詣の深い松本清張らしいです。「我妹子はくしろにあらなむ左手の 吾がおくの手にまきていなましを」という「釧」にまつわる万葉集の歌の引用も上手いです。日本で発見例の少ない「ガラス釧」が、宗三が関わる「事件の中心」に据えられている点に、「万葉考古学」を信奉する清張のオリジナリティの高さが感じられる作品です。

 紙面の関係で20日ほど掲載が空きましたが、4月上旬は5日、7日に掲載が予定されています(たまに問い合わせを受けるのですが、私もゲラが出るまで掲載日や見出しや挿絵などの詳細を知らないのです)。40回に至っても、代表作といえる作品がまだまだ残っているのが「清張山脈」の大きさと言えます。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1076204/

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 常勤の教員になって18年目を迎えました。成人の歳です。今年から科研費の基盤Cで「現代日本文学の地理的分布と風土に関する研究」を始めます。文学一般関連の小区分(比較文学や文学理論、文芸批評やメディア論の文芸寄りなどの分野)で、成果については、アメリカの比較文学会(ACLA)や海外のメディア系・地域文化系の学会での発表を予定しています。共同利用・共同拠点で取り組んでいる英字ニュースの解析も含め、50歳ぐらいまでに取り組む仕事は大よそ決めていることもあり、今年度もマイペースで(膝の骨折と肩の脱臼のリハビリを継続しつつ)、日々、机に向かいたいと思います。
 今年はIAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)@リヨンのJournalism Research and Educationのセクションでの発表(前の科研費の分担分の成果報告)で、2019年にナンシーを訪れて以来、久しぶりにフランスに滞在する予定です。フランスの影響の強いUNESCOが(民主主義的なメディア・コミュニケーション研究のために)1957年にパリでIAMCRの設立を後押しした歴史的な経緯もあり、新型コロナ禍明けの対面開催を、旧市街の全体が世界文化遺産であるフランスのリヨンにした点が、良い感じです。