西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第41回(2023年4月5日)は、女性の悪徳銀行員が、「黒革の手帳」を武器に、男性の悪人たちに復讐を遂げる『黒革の手帳』について論じています。担当デスクが付けた表題は「男性社会に恨み抱く 女性行員の復讐物語」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。東京郊外の弁当工場で働く女性たちが、死体隠滅の仕事を請け負いながら、男性が中心に居座る家庭や社会に復讐していく姿を描いた桐野夏生の『OUT』とのmatch-upです。
男女雇用機会均等法が施行されたのが、バブル経済の最中の1986年。高度経済成長期からバブル経済期にかけて多くの女性行員は、責任の生じる仕事から外され、出世が約束された男子行員のサポートを強いられていました。本作は76年から78年にかけて「週刊新潮」に連載された松本清張の晩年の代表作の一つで、女性行員の「怨嗟」を核として物語を構成している点がユニークです。このような時代に、結婚することなく、「東林銀行」に残り続けた主人公の原口元子は、銀行が裏で取り扱う「架空名義預金」を横領して、銀座にバーを開業することを決意します。
ドラマ・映画版では米倉涼子が主演を務め、悪事に手を染める男たちと、悪を持って対峙する芯の強い女性を演じています。連載当時、松本清張は60代後半でしたが、本作で展開される「黒い復讐劇」は、高度経済成長期に記した代表作と比べても遜色ないほど、面白いです。元子が抱く「入行以来、ながいあいだ愛情のかけらもみせてくれなかった周囲への心理的報復」の物語は、松本清張らしい「社会派の動機」に裏打ちされたもので、深みがあります。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1076692/
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今月は村上春樹さんの6年ぶりの新作長編『街とその不確かな壁』(新潮社)が発売されます。短めの書評をいつもと違う新聞に書く予定です。村上作品は事前に書評用のゲラが出ないため、発売日に読み、すぐに原稿を書く必要がありますが、楽しみにしています。1980年の「文學界」掲載の中編「街と、その不確かな壁」と、これを基にした『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を読み終え、4月13日に備えています。事前準備の段階で「書きたいこと」が予定文字数を超えているわけですが(なぜ今この作品か、という点については、思い当たる節がありますが)、「古い夢」を運ぶ一角獣と、「ことば」の死に直面し、「影」と引き離された「僕」の無意識世界とその「たまり」の行く末がどうなるのか。新たにアリョーシャの名言が引かれ、ボブ・ディランの名曲が手風琴で奏でられるのでしょうか。
https://www.shinchosha.co.jp/harukimurakami/#zero
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坂本龍一さんは「批評空間」のシンポジウムに登壇されていたこともあり、規模の小さなイベントでは、空き時間に普通にお茶をされていて、一度、隣の席になったことがありました。周囲に細やかな気遣いをされる穏やかな方という印象で、「教授」という愛称に相応しい「思想」を携えていた方だったと思います。文芸誌では「新潮」と関係が深く、近々本になると思いますが、昨年から「新潮」に連載されたインタビュー自伝「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」も具体的なエピソードが満載で、贅沢な内容でした(『現代文学風土記』の書評の「新潮」掲載時が、連載2回目でした)。浅田彰さんの本格的な追悼文を文芸誌で読みたいです。
「Merry Christmas Mr. Lawrence」が一番有名な曲だと思いますが、皇道派のヨノイ少尉の演技も、皇道派の理念の蹉跌を感じさせる際どさで良かったです。大島渚らしい戦時下のジャワ島を舞台にした、灰汁の強い「青春残酷物語」に相応しい名曲でした。NYで活動し、ハリウッドの映画音楽(作曲賞)でオスカーを獲ったのがすごい。
【予告編】『戦場のメリークリスマス 4K修復版』