2023/04/19

「没後30年 松本清張はよみがえる」第44回「一年半待て」

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第44回(2023年4月19日)は、1957年に「別冊週刊朝日」に掲載され、テレビ・ドラマの枠に適した「ドラマチックな内容」ということもあり、繰り返し映像化されてきた「一年半待て」について論じています。担当デスクが付けた表題は「刑法の原則を題材に 模索した幸福な人生」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。純文学的な「夫のきな臭い失踪劇」を、「信用できない語り手」によってひも解いた川上弘美の『真鶴』とのmatch-upです。

 戦争が終わり婚期を迎え、高度経済成長期に入り、平和であるはずだった家庭で生じた殺人事件を描いた作品です。家計を支えるべく、さと子が生命保険のセールスウーマンとしてダムの工事現場をめぐり、契約者を増やしていく中で、なぜ「夫の撲殺事件」を引き起こしたのかがミステリの核となります。さと子の夫に対する復讐劇は、「一年半の時間」を計算に入れた周到なものでしたが、その「社会的な動機」が読みどころとなります。小説の終盤に「一年半、待てなかった男」が登場し、彼がさと子の「別の顔」について告白することで、物語はどんでん返しの結末を迎えます。

 29歳のさと子役は、60年に淡島千景、68年に森光子、76年に市原悦子、84年に小柳ルミ子、91年に多岐川裕美、2002年に浅野ゆう子、16年に石田ひかりなど「時代を代表する脂の乗った女優」たちが演じています。「一年半待て」は、高度経済成長期からオイルショック、バブル経済を経て「失われた20年」に至るまで、各時代の特徴を織り込んで映像化され、長らく人気を博してきました。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1081025/

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『現代文学風土記』(西日本新聞社)の第2刷の発行は2023年5月18日を予定しています。1000部の増刷予定で、現在、約900枚の原稿を再チェックしています(まあまあ大変。。)。書籍の刊行はスモールビジネスですが、様々な場所の図書館で配架して頂いたり、この本の実績を踏まえて科研費を採択頂いたり、コミュニケーションの拡がりが実感でき、嬉しい限りです。翻訳も含めて先々の展開について検討しています。

 出版や紙媒体のメディアをめぐる環境は年々厳しくなっていますが、個人的には新聞や文芸誌に書けるうちは書きつつ、徐々に英語で本(電子版)を書いたり、英字ニュースの解析・分析にも力を入れていく予定でいます。GoogleのBERTやGPT-4のようなLLMの普及で、テキスト解析の負担が軽減されているので、英字ニュースの解析は楽になりそうです。

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 村上春樹著『街とその不確かな壁』(新潮社)の書評は、4月23日(日)に北海道新聞に掲載される予定です。4月13日発売で14日に読み終え、16日に書き終え、17日に校了しました。詳細は後日。

 来月に手術があるので、膝蓋骨の骨折と肩の脱臼のリハビリと、その疲れの回復に時間を取られてしまうのが悩ましい日々です。