西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第46回(2023年5月3日)は、日本経済新聞に連載され、日本経済がオイルショックで行き詰まり、鉄鋼業や造船業など「重厚長大」な産業が衰退していく「暗い時代」を背景にした「馬を売る女」について論じています。担当デスクが付けた表題は「競馬ブーム取り入れ 暗い世相を女に投影」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。競馬場の雰囲気とそれを愛する人々との思い出を活写した高橋源一郎の『競馬漂流記』とのmatch-upです。
日本の繊維産業は、明治初期から絹織物を中心として「近代化」を担い、戦後も合成繊維の生産を中心として「復興」の中核を担ってきましたが、この作品が書かれた時期は、衰退期に足を踏み入れていました。花江はこのような「繊維産業の不況」を体現した存在と言えます。彼女は日東商会から給料をもらうだけでは満足せず、その社員に月7%の利息で金を貸して蓄財し、馬主を務める社長の電話を盗聴して「競争馬の極秘情報」を入手し、それを転売して副収入を得ています。82年の大映テレビ・TBSドラマ版の風吹ジュンの演技が、味わい深いです。
「馬を売る女」の初出の77年は、地方競馬から中央競馬に勝ち上がったハイセイコーが「国民的な人気」を博し、競馬の娯楽としての知名度を高めて間もない時期でした。大衆の欲望の流れに敏感な松本清張は、小説の題材として「競馬ブーム」を取り入れたかったのだと思います。
本連載もあと少しです。50回まで入稿済ですが、松本清張の作品をバランス良く網羅した50本のラインナップになったと感じています。50回に近付いても代表作が残る「清張山脈」の奥深さが良いです。
5月28日(日)に福岡市の天神スカイホールで「没後30年 松本清張はよみがえる」に関連したイベントを開催します。九州北部と清張作品の関係について触れる話になると思います。私と担当記者とイラストの吉田ヂロウさん他。
13時スタートで、参加料千円。希望者は〒810-8721(住所不要)西日本新聞くらし文化部へ、はがきか、後日、西日本新聞に掲載のQRコードから住所、氏名、参加人数、電話番号、好きな松本清張作品とその理由を書いて申し込んでくださいとのことです。5月15日締め切り(消印有効)とのことです。
九州北部にお住いの方々と、松本清張の没後30年を一つの機会として、清張作品の魅力と記憶を、類似したテーマを扱う日本の現代小説の魅力と共に、楽しみながら継承することができる会になれば嬉しいです。
それと『現代文学風土記』(西日本新聞社)は現在、Amazonや楽天ブックスなどで品切れ中ですが、2刷があと一週間ほどで発行されますので、値段が高めの中古本よりも、正規の値段(1800円+税)で新品をお買い求めを頂ければ幸いです。