2023/05/08

「没後30年 松本清張はよみがえる」第47回『黒い福音』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第47回(2023年5月8日)は、『黒い福音』について論じています。担当デスクが付けた表題は「未解決事件への怒り 戦後史の『悪』を凝縮」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。新興宗教の道場の窓から教祖の「念」によって転落死したとされる事件などを描いた、東野圭吾の『虚像の道化師 ガリレオ7』とのmatch-upです。

 1959年に東京都杉並区で英国海外航空(現・ブリティッシュ・エアウェイズ)の客室乗務員が殺害された「未解決事件」を題材としたミステリです。交際相手だったとされるカトリック系の「ドンボスコ修道院」のベルギー人神父が容疑者と目されました。当時の日本では、「スチュワーデス」は女性たちの憧れの仕事であり、敗戦による「コンプレックス」が容疑者への怒りに転化しやすい時代だったため、この事件は大きな注目を集めました。

 本作は「架空の教会の物語」として描かれたフィクションです。ただ警察の捜査や新聞社による報道が進展する中で、容疑者の神父が「持病の悪化」を理由として飛行機で国外に逃亡し、事件が迷宮入りした点など、現実と重なる部分が多いです。迫害の歴史を乗り越えてきたカトリック教会の「闇」が見え隠れする「きな臭い事件」を通して、戦後日本の暗部に迫った松本清張の代表作の一つと言えます。大映テレビ・TBSのドラマ版も良い演出でした。

 本連載もあと3回です。主要作品と映画化作品は、私的な評価の尺度(書籍版で詳しく書きます)に基づいてほぼ網羅してきました。今回の原稿の隣に、5月28日(日)13時~に福岡市の天神スカイホールで行う「没後30年 松本清張はよみがえる」のトークイベントの告知が出ています。九州北部と清張作品の関係について触れる話になると思います。私と担当記者とイラストの吉田ヂロウさん他。初稿を入れた後はイラストや表題など紙面作りはお任せだったので、私も聞きたいことがあります(笑)

 連載ではあまり触れられなかった映画版の清張作品の話(清張の映画観、脚本家の橋本忍、監督の野村芳太郎、霧プロダクションのことなど)にも触れることになると思います。清張作品の映画版に関するポイントについては、書籍版に加筆する予定です。

松本清張の魅力、酒井信さんらが語る 28日に福岡市でイベント

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