西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第62回 2019年6月9日)は、道尾秀介の直木賞受賞作『月と蟹』を取り上げています。表題は「湘南っ子の友情と生長」です。先日、建長寺の裏山にある十王岩に登って撮影した鎌倉の写真を掲載頂いています。湘南の海と若宮大路の景色が、新聞紙らしい発色で綺麗に写っています。
この作品は、鎌倉市に近い海辺の町を舞台として、小学生の慎一と春也と鳴海の3人の友情を描いた内容です。ヤドカリをライターで炙り出すという、子供らしくも残酷な儀式を通して、3人はそれぞれの人生を打開するための願い事を心に抱くことで、物語が展開されます。
主人公の慎一にとって湘南は地元と言える場所ではないですが、かといって自分の力で他に行き場を見付けることは難しく、「行き止まり」と言える場所です。この作品では、閉塞感を伴うネガティブな意味での土地との結び付きと、家庭の事情に左右されながら生きざるを得ない小学生の無力な存在の有り様が、丁寧に描かれています。
親の存在に生活が左右される小学生の日常を描いている点に読み応えがあり、ポジティブな経験に根ざした友情を描いた青春小説が多い中で、ネガティブな経験を共有すること生まれる友情を描いている点に、作家の筆力が生きています。ヤドカリを殺す儀式を通して「共犯関係に似た友情」を育みながら、不器用に生長していく子供たちの姿に、古典的な近代文学に繋がるテーマ性の高さが感じられます。
北鎌倉の禅寺・建長寺の風景など、海と山が近い湘南らしい風景が読後の印象に残る作品です。
この作品は、鎌倉市に近い海辺の町を舞台として、小学生の慎一と春也と鳴海の3人の友情を描いた内容です。ヤドカリをライターで炙り出すという、子供らしくも残酷な儀式を通して、3人はそれぞれの人生を打開するための願い事を心に抱くことで、物語が展開されます。
主人公の慎一にとって湘南は地元と言える場所ではないですが、かといって自分の力で他に行き場を見付けることは難しく、「行き止まり」と言える場所です。この作品では、閉塞感を伴うネガティブな意味での土地との結び付きと、家庭の事情に左右されながら生きざるを得ない小学生の無力な存在の有り様が、丁寧に描かれています。
親の存在に生活が左右される小学生の日常を描いている点に読み応えがあり、ポジティブな経験に根ざした友情を描いた青春小説が多い中で、ネガティブな経験を共有すること生まれる友情を描いている点に、作家の筆力が生きています。ヤドカリを殺す儀式を通して「共犯関係に似た友情」を育みながら、不器用に生長していく子供たちの姿に、古典的な近代文学に繋がるテーマ性の高さが感じられます。
北鎌倉の禅寺・建長寺の風景など、海と山が近い湘南らしい風景が読後の印象に残る作品です。