2019/06/16

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第63回 朝倉かすみ『平場の月』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第63回 2019年6月16日)は、朝倉かすみの山本周五郎賞受賞作『平場の月』を取り上げています。表題は「中年男女の互助会的友情」です。

朝倉かすみは、ごく普通の生活を送る中年の男女の、「世間体」という重しを引っ剥がしたところに蠢く、不器用な生き方や、感情の「しこり」を描くのが上手い作家です。それは「平場」で長く働いてきた経験を持つ、遅咲きの作家らしい、優れた資質と言えると思います。刊行後のレビューによると、この小説を「実感」を軸にして書くために、朝倉は「派遣バイト」に行き、「平場の厳しさ」を体感し直したらしいです。

この作品は、埼玉県南部の朝霞、新座、志木を舞台として、五十歳の青砥の視点から「このへんで育ち、このへんで働き、このへんで老いぼれていく連中」の日常を描いた内容です。50歳の煮詰まった人生の中にも、「好きなような、好きとは言い切れないような、弾力のある好意」が生まれ、青春時代の思い出を土台とした「互助会的」な友情が育ち得ることを力強く物語っています。