西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第11回(2022年10月4日)は、『日本の黒い霧』より「下山国鉄総裁謀殺論」について論じています。担当デスクが付けた表題は「未解決事件を題材に GHQ内の対立描く」です。『日本の黒い霧』からは、もう一作、取り上げます。「A」「A2」『放送禁止歌』『下山事件』などの作品で知られる森達也さんとのmatch-upです。森達也さんには、15年ほど前に『平成人(フラット・アダルト)』(文春新書)の解説を「本の話」(文藝春秋)にご寄稿頂きました。
松本清張の代表作として広く知られる「日本の黒い霧」は、1960年1月から12月にかけて月刊「文藝春秋」に連載されたノンフィクション小説です。この年は新安保条約が強行採決され、反対派の大規模なデモが起こり、岸信介内閣を総辞職に追い込んだ社会党委員長の浅沼稲次郎が、日比谷公会堂で刺殺されるなど、様々な事件が起きました。このような時代を背景として、本作は戦後日本で起きた複雑怪奇な未解決事件の真相に迫り、「GHQ(連合国軍総司令部)」の暗部を浮き彫りにしています。
現代から見てもこの作品は、未解決事件を通してGHQの内部抗争を描いた点が新鮮です。特に日本の反共化を重視するG2(参謀第二部)と民主化を重視するGS(民政局)の対立が、日本の戦後史に与えた影響について生々しく描かれています。池田勇人内閣が「所得倍増計画」を打ち出した時代に、戦後日本でタブーとされてきた「GHQの闇」に切り込んだ点に、松本清張らしい反骨精神が感じられます。本作は1960年という戦後日本の分岐点と言える年を象徴する作品となり、官庁や警察発表をもとにした新聞報道とは一線を画す「文春ジャーナリズム」を確立しました。論壇と文壇を架橋する筆致に学ぶことが多いです。
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