2022/10/18

「没後30年 松本清張はよみがえる」第14回『顔』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第14回(2022年10月17日)は、『顔』について論じています。担当デスクが付けた表題は「サスペンスの粋凝縮 国民作家に至る原点」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。ベストセラーとなった『贖罪』などの作品で、顔をキーとしたミステリを展開している湊かなえさんとのmatch-upです。連載の隣には先日、長崎県美術館で実施した「九州芸術祭文学カフェ」の取材記事をご掲載頂いています。

 様々な芸能人に「顔真似」をされるほど、松本清張は戦後日本の作家の中でも圧倒的に「顔」の売れた作家でした。清張作品の多くが映画やドラマになった大きな理由は、清張が「顔」が売れた作家であり、出演する役者たちの「顔」を巧みに映えさせる作家だったからだと思います。この意味で「顔」は国民作家・松本清張の原点となる短編の一つだと私は考えています。

 この作品は1956年に発表された松本清張にとって初めての「推理小説短編集」の表題作です。翌年に大木実と岡田茉莉子の主演で、清張の作品として初めて映画化され、人気を博しました。清張は1952年に「或る「小倉日記」伝」で芥川賞を受賞しましたが、この当時、芥川賞は現代ほど注目を集める賞ではありませんでした。「多人数の家族を抱えていると、不安定な収入生活に飛び込んでいく勇気がなかった」と回想しているように、彼はデビューした後も6年ほど朝日新聞社で働きながら、小説を書いていました。清張が朝日新聞社を退社し、専業作家となるのは、この「顔」を発表する直前でした。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1002471/


風土の記憶を継承する現代文学の可能性/九州芸術祭文学カフェin長崎