西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第50回(2023年5月17日)は、松本清張が幼少期から思春期まで最も身近な存在だった祖母=「ばばやん」について記した晩年の名短編「骨壺の風景」について論じています。担当デスクが付けた表題は「故郷の記憶をたどる 『鎮魂』の自伝的小説」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。本作と同様に、人間の生死を越えた「温度のない悲しみ」をとらえた車谷長吉の『赤目四十八瀧心中未遂』とのmatch-upです。
松本清張は立志伝中の人です。貧しい家庭に生まれ育ち、尋常高等小学校を卒業後、給仕や画工の仕事を経て、40歳を超えてデビューし、時代を代表する作家となりました。清張の人生は、清張が記した小説の登場人物たち以上にドラマチックで、「文学的」です。清張が記した自伝小説の代表は1963年に記された『半生の記』ですが、これに次ぐ小説が、初期の自伝的名作「父系の指」と同じく「新潮」に掲載された本作です。
本作は、戦前の小倉の下町の風景やそこで貧しい生活を送っていた人々の感情を「集合的記憶」として掬い取った、優れた「純文学作品」でもあります。
「私は、小さいときから他人のだれからも特別に可愛がられず、応援してくれる人もなかった。冷え冷えとした扱いを受け、見くだす眼の中でこれまで過ごしてきた。その環境は現在でもそれほど変わってないと思っている」という本作の一節は、松本清張が「人生の底」を生きる人々の「温度のない悲しみ」に寄り添い、失われた時の中で「ばばやん」の「骨壺の重さ」を感じることができる「不世出の叩き上げの作家」だったことを雄弁に物語っています。
「松本清張はよみがえる」は、今回の50回で完結です。松本清張の主要作を網羅した良いラインナップになりました。各作品の知名度の高さ、映像作品も含めた影響力の大きさに驚かされるばかりです。連載中は膝の手術もあり、再手術を終えたばかりですが、連載50回を書き切ることができて良かったです。
5月28日(日)に福岡市の天神スカイホールで「没後30年 松本清張はよみがえる」に関連したイベントを開催します。詳細は「西日本新聞 文化班 Twitter」でご確認を頂ければ幸いです。5月17日の消印有効で、今朝の時点で120人ほどの方々からお申し込みを頂いているそうです。多くの皆さまにご関心を頂き、心より感謝申し上げます。松本清張が半生を過ごした九州北部で、彼が残した仕事を、現代的な視点からから楽しく振り返る会になれば幸いです。
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