西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第122回 2020年8月23日)は、辻村深月の代表作の一つ『ツナグ』を取り上げています。表題は「品川起点に物語る集合的記憶」です。
8月も色々と仕事が重なり、夏休みを過ごした感じが全くしないですが、遅れている原稿に取り掛かりつつ、青学の集中講義の準備と、秋学期の授業準備(英語50%)に取り掛かるところです。
辻村深月の「ツナグ」は、品川のホテルを玄関口として死者の世界と現世を取り次ぐ「使者(ツナグ)」を中心とした物語です。
品川は東海道五十三次の一番目の宿場町で、江戸の街の境目でした。日本橋から8キロという立地の良さも手伝って、品川宿は岡場所(歓楽街)としても大いに栄えています。落語の名作「品川心中」や「居残り佐平治」は、往時の品川宿の遊郭の賑わいを伝える作品です。
高層のホテルが林立し、東京の外環を形作る現代の品川は、依然として死者と生者の面会場所に相応しいのだと思います。
辻村深月『ツナグ』あらすじ
死んだ人間と生きた人間を、一生に一度だけ引き合わせる「使者=ツナグ」。自殺の噂が囁かれるアイドルや、癌であることを知らされることなく亡くなった母親、結婚を前にして突如行方不明となった婚約者など、訳ありの死者たちと再会する人々の姿が描かれる。「占いの家系」に生まれ、「使者=ツナグ」となった歩美の家族の謎にも迫るミステリー形式の作品。著者らしい異色の連作長編小説。