2022/10/25

「没後30年 松本清張はよみがえる」第15回「父系の指」

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第15回(2022年10月25日)は、清張の純文学系の名作「父系の指」について論じています。担当デスクが付けた表題は「積年の怒りあらわに 私怨晴らした私小説」です。毎回、9×9文字で担当デスクに目を引くタイトルを付けて頂いています。『枯木灘』などの作品で、父系の親族に対する愛憎半ばする複雑な感情を描いた中上健次とのmatch-upです。

 松本清張の作品としては珍しく、純文学色が強い「私小説」です。生まれ育った家の貧しさを赤裸々に記し、高等小学校卒の経歴で、半生を無名で生きてきたことへの「行き場のない怒り」を露わにした異色の「血縁小説」でもあります。朝日新聞東京本社に勤めていた1955年に、文芸誌「新潮」に発表された最初期の短編の一つで、不遇でお人よしだった父親の人生を、自らの半生をひも解きながら描いています。

 清張は「週刊朝日」の懸賞小説「西郷札」でデビューし、三田文学に掲載された「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を獲得して注目を集めました。ただ文芸誌での本格的なデビュー作は、「私小説」として完成度の高い本作だったと私は考えています。この小説は表題の通り、父系の「長い指」をめぐる物語で、鳥取県の山村・矢戸で裕福な地主の長男として生れながら、貧しい農家に里子に出された、父親の不遇の物語です。矢戸を含む奥出雲は「砂の器」がベストセラーになったことで、東北弁と似た訛りの方言を話すことでも知られています。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1005568/

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 NBCのSaturday Night Liveのシーズン 48が始まりました(Huluで観てるため数週間遅れの話題)。Kate McKinnonがキャストから外れたのが非常に残念でしたが、Miles Tellerがホストで音楽ゲストがKendrick Lamarという、世代交代を印象付けるゲストで、上々の滑り出しだったと思います。オープニングがManning兄弟のMNFのぬるい解説のパロディと、Trump絡みのジョークで(NFLの開幕と中間選挙に合わせた視聴率狙いのネタだと思いますが)、Colin JostとMichael CheのWeekend Updateは変わらずで、ひと安心。Kendrickの地上波向けの歌詞や、Bowen Yangの害虫ネタ、MacDonaldのグリマスのパロディもベタに笑いました。今シーズンからKateのJustin Bieberネタが見れないのは残念ですが、若手の新キャストに期待してます。

 授業でもたまに取り上げていますが、SNLではLGBTQやマイノリティの出演者がカジュアルにカムアウトし、自らのアイデンティティをごく普通にネタに織り込んでいます。この点はNYらしく、この番組の大きな魅力になっています(例えばKateはL、BowenはG、SNL版のグリマスはB、Kendrickはanti-cancel culture advocateであることを、自らのアイデンティティとしてユーモラスに、誇り高く示しています)。

https://www.youtube.com/watch?v=x1ursSZ0NCw

https://www.youtube.com/watch?v=04qA4krEub8

2022/10/18

「没後30年 松本清張はよみがえる」第14回『顔』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第14回(2022年10月17日)は、『顔』について論じています。担当デスクが付けた表題は「サスペンスの粋凝縮 国民作家に至る原点」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。ベストセラーとなった『贖罪』などの作品で、顔をキーとしたミステリを展開している湊かなえさんとのmatch-upです。連載の隣には先日、長崎県美術館で実施した「九州芸術祭文学カフェ」の取材記事をご掲載頂いています。

 様々な芸能人に「顔真似」をされるほど、松本清張は戦後日本の作家の中でも圧倒的に「顔」の売れた作家でした。清張作品の多くが映画やドラマになった大きな理由は、清張が「顔」が売れた作家であり、出演する役者たちの「顔」を巧みに映えさせる作家だったからだと思います。この意味で「顔」は国民作家・松本清張の原点となる短編の一つだと私は考えています。

 この作品は1956年に発表された松本清張にとって初めての「推理小説短編集」の表題作です。翌年に大木実と岡田茉莉子の主演で、清張の作品として初めて映画化され、人気を博しました。清張は1952年に「或る「小倉日記」伝」で芥川賞を受賞しましたが、この当時、芥川賞は現代ほど注目を集める賞ではありませんでした。「多人数の家族を抱えていると、不安定な収入生活に飛び込んでいく勇気がなかった」と回想しているように、彼はデビューした後も6年ほど朝日新聞社で働きながら、小説を書いていました。清張が朝日新聞社を退社し、専業作家となるのは、この「顔」を発表する直前でした。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1002471/


風土の記憶を継承する現代文学の可能性/九州芸術祭文学カフェin長崎

2022/10/13

「没後30年 松本清張はよみがえる」第13回『小説帝銀事件』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第13回(2022年10月13日)は、『小説帝銀事件』について論じています。担当デスクが付けた表題は「『社会派』小説の原型 世論を変える影響力」です。直木賞候補作『インビジブル』などで知られる坂上泉さんとのmatch-upです。

 1948年にGHQ占領下の日本で起きた帝銀事件を題材にした小説です。ベストセラーとなった「日本の黒い霧」の前年に書かれた本作は、松本清張のノンフィクション小説の原型となりました。帝銀事件は、東京都豊島区の帝国銀行椎名町支店で都の衛生課員を名乗る人物が、湯飲み茶わんに赤痢の薬と称して青酸カリを入れて16人の銀行員に飲ませ、12人を殺害したことで知られます。

 最終的に犯人として逮捕された画家の平沢貞通は、1955年に最高裁で死刑判決を受けた後も無実を主張し続けて、95歳まで生きました。本作は「日本の黒い霧」がベストセラーになったことも手伝って、平沢が無罪であるとする世論形成に大きな影響を与えたと考えられます。GHQの参謀第二部(G2)の情報将校・ジャック・キャノンを想起させる人物の関与や、毒物の扱いに慣れていた七三一部隊や陸軍中野学校の関係者を真犯人だと示唆する本作の内容が、帝銀事件をめぐる世論を変えたわけです。

 物的証拠が少なく、あやふやな自白が犯人を特定する上で重視されたのも、帝銀事件が「未解決事件」とされる大きな要因です。帝銀事件の捜査で、日本の犯罪史上初めてモンタージュ写真が作られましたが、人相をもとにした犯人特定は怪しいもので、毒殺を免れた行員の証言もあやふやなものでした。

 次週は第14回のみの掲載予定です。有名な作品を多く取り上げてきましたが、現時点で私的な「松本清張ベスト5」に入る作品は、まだまだ1作です。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1000303/

2022/10/12

「没後30年 松本清張はよみがえる」第12回『日本の黒い霧 追放とレッド・パージ』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第12回(2022年10月12日)は、『日本の黒い霧』より「追放とレッド・パージ」について論じています。担当デスクが付けた表題は「GHQの暗部に迫る 小説と評論の中間物」です。文芸評論家で、早稲田大学の国際教養学部で教鞭を執られていた加藤典洋さんとのmatch-upです。

 日本は昭和20年の敗戦から昭和26年のサンフランシスコ講和条約の調印まで、実質的に主権を失い、GHQ(連合軍総司令部)に支配され、この時代に本作で取り上げられている下山事件や松川事件など「未解決事件」を経験してきました。

「日本の黒い霧」で一貫して清張が指摘しているのは、GHQは下山事件からレッド・パージまで一枚岩ではなく、将来のソビエトとの戦いを見据えて、ニューディーラーが多かったGS(民政局)と、保守勢力と協調していたG2(参謀第二部)の対立があったという事実です。

 敗戦後日本では「パージ(追放)」は二度行われています。一度目は、敗戦直後から軍部の台頭と超国家主義の復活を防ぐために、戦犯や翼賛体制に寄与した政治家や財界人などを対象としました。追放者の三親等までが公職に就くことを禁止され、密告や投書によって追放の可否が決まり、GHQへの懇願や裏取引によって追放を免れたと言いますから、当時の混乱が推測できます。

 二度目は1950年の朝鮮戦争に前後して、いわゆる「赤狩り(レッド・パージ)」として行われています。注目するべきは、一度目の保守勢力の追放が解除され、敗戦後に追放されていた元特高警察官も、諜報活動を担うG2に雇用され、「レッド・パージ」に加担したという事実です。つまり戦前から共産主義者の調査に関して豊富な経験を持つ特高が、GHQの下で対ソ戦のために再組織化されたわけです。

 本作は、清張らしい生活者の視点から、レッド・パージによって締め出された人々に、左右のイデオロギーを超えて寄り添った「社会批評」と言えます。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/999866/

2022/10/06

「カドブン」(KADOKAWA文芸WEBマガジン)に吉田修一著『逃亡小説集』の文庫解説が掲載されました

 カドブン(KADOKAWA文芸WEBマガジン)に吉田修一著『逃亡小説集』の文庫解説「不器用な「悪人」たちの「逃亡文学」」が掲載されました。累計20万部超えの人気シリーズの文庫解説です。吉田修一さんのTwitterでもご紹介を頂き、ありがとうございます。長崎南高校の先輩と仕事をご一緒できまして、西九州新幹線の開通のお祝いという感じがしました。映画化にも期待しています!

https://kadobun.jp/reviews/bunko/entry-46808.html


2022/10/04

「没後30年 松本清張はよみがえる」第11回『日本の黒い霧 下山国鉄総裁謀殺論』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第11回(2022年10月4日)は、『日本の黒い霧』より「下山国鉄総裁謀殺論」について論じています。担当デスクが付けた表題は「未解決事件を題材に GHQ内の対立描く」です。『日本の黒い霧』からは、もう一作、取り上げます。「A」「A2」『放送禁止歌』『下山事件』などの作品で知られる森達也さんとのmatch-upです。森達也さんには、15年ほど前に『平成人(フラット・アダルト)』(文春新書)の解説を「本の話」(文藝春秋)にご寄稿頂きました。

 松本清張の代表作として広く知られる「日本の黒い霧」は、1960年1月から12月にかけて月刊「文藝春秋」に連載されたノンフィクション小説です。この年は新安保条約が強行採決され、反対派の大規模なデモが起こり、岸信介内閣を総辞職に追い込んだ社会党委員長の浅沼稲次郎が、日比谷公会堂で刺殺されるなど、様々な事件が起きました。このような時代を背景として、本作は戦後日本で起きた複雑怪奇な未解決事件の真相に迫り、「GHQ(連合国軍総司令部)」の暗部を浮き彫りにしています。

 現代から見てもこの作品は、未解決事件を通してGHQの内部抗争を描いた点が新鮮です。特に日本の反共化を重視するG2(参謀第二部)と民主化を重視するGS(民政局)の対立が、日本の戦後史に与えた影響について生々しく描かれています。池田勇人内閣が「所得倍増計画」を打ち出した時代に、戦後日本でタブーとされてきた「GHQの闇」に切り込んだ点に、松本清張らしい反骨精神が感じられます。本作は1960年という戦後日本の分岐点と言える年を象徴する作品となり、官庁や警察発表をもとにした新聞報道とは一線を画す「文春ジャーナリズム」を確立しました。論壇と文壇を架橋する筆致に学ぶことが多いです。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/996513/

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 先週は「九州芸術祭文学カフェ@長崎県美術館」と明治大学図書館の「書評の書き方講座」がどちらも盛況で、ひと仕事終えた感じがしました。
 九州芸術祭文学カフェについては後日、取材記事が出るかと思います。長崎で家族と良い時間を過ごすことができました。西九州新幹線は洗練されたデザインが素晴らしく、子供たちも喜んでいました。
 先週、英字論文の査読も無事通り、今年のニュースの解析・分析の研究成果の公表もひと段落という感じです。出稿時で17ページほど、大学からの外国語学術論文校閲料の助成も得られました。
 今月は、先週、試写を観た映画の長めの批評と、松本清張連載の後半の作業に取り組んでいます。村上春樹さんがノーベル文学賞を獲得した場合のみ掲載される原稿もありますが、数年塩漬けになっていますので、今年もどうでしょう。

2022/10/03

「没後30年 松本清張はよみがえる」第10回『昭和史発掘 三・一五共産党検挙』

  西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第10回(2022年10月3日)は、『昭和史発掘』より「三・一五共産党検挙」について論じています。担当デスクが付けた表題は「拷問の経験も下地 思想弾圧の内情描く」です。『昭和史発掘』については社会史から、「2.26事件」や「スパイ"M"の謀略」も検討しましたが、昭和維新期のことは『神々の乱心』と被るのと、スパイM(三船留吉)が暗躍した時期の日本共産党は、福本和夫や佐野・鍋山がおらず、思想史的にはあまり考えるべきことがないため、「三・一五共産党検挙」を選びました。大森銀行ギャング事件などを活写した『日本共産党の研究』などの著作で知られる立花隆とのmatch-upです

 松本清張は1929年(昭和4年)に小倉警察署で「思想犯」として拘留され、特高に竹刀で拷問をされた経験を持ちます。八幡製鉄所で働いていた文学仲間が、非合法に出版されていた「戦旗」を読んでいたことから、同じグループだと見なされたわけです。「戦旗」は1928年(昭和3年)の三・一五共産党検挙の直後に、文学面での共産主義者の機関誌として発行された文芸誌で、小林多喜二が「蟹工船」を発表したことで広く知られています。

 ただ当時19歳だった松本清張は、共産主義への関心は全く持っておらず、印刷所の見習工として必死で図案の勉強していました。彼は家が貧しいため中学校に通うことができず、借金取りに追われる父を見ながら「文学などやっていられない、早く生活を安定させなければ、一家が路頭に迷う」(「半生の記」)と考えていました。

 小林多喜二は個人的に好きな作家で(全集も所有していますが)、「蟹工船」も良いですが、「党生活者」が瑞々しい筆致で、素晴らしいです。

 昭和維新期の左右のイデオロギーについては、下の「実録・共産党 日本暗殺秘録 解説」に記しています。個人的には、戦前の共産党では三・一五検挙の後、出所して、柳田国男に私淑し、『日本ルネッサンス史論』や『日本捕鯨史話』を記した、福本和夫に関心があり、いつか何か書くつもりでいます。

https://makotsky.blogspot.com/2009/10/blog-post.html

【昭和史発掘 三・一五共産党検挙】拷問の経験も下地 思想弾圧の内情描く

没後30年 松本清張はよみがえる(10)

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/996038/

2022/09/27

「没後30年 松本清張はよみがえる」第9回『神々の乱心』

  西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第9回(2022年9月26日)は、清張の未完の遺作『神々の乱心』について論じています。担当デスクが付けた表題は「新興宗教通して描く 見えざる宮中の暗部」です。新興宗教との関連で、担当デスクに前倒しのリクエストで(苦労して)書いた原稿で、「日本暗殺秘録」「昭和の天皇」(未映画化)「仁義なき戦い」などの脚本家・笠原和夫とのmatch-upです。文庫の上下で千ページ近いこの作品について4枚弱で論じるのはなかなか大変でした。

 満州事変が起きた2年後の1933年の日本を舞台に、新興宗教・月辰会研究所と宮内省の女官たちの関係を創作的にひも解いた作品で、一部の識者には高く評価されていますが(原武史先生の歴史的な文脈を補足した見事な批評がありますが)、普通に小説として読むと評価が分かれる作品だと思います(82歳の作家の作品としては間違いなく凄いです)。1960年代に発表された作品のように、めくるめく事件が引き起こされるスリリングな小説ではないですが、新興宗教を通して昭和維新期の不穏な空気を巧みにとらえています。

 神器を用いた「シャーマニズムの信仰」の根源に迫る内容で、大正天皇の妃である貞明皇后と、昭和天皇の妃である香淳皇后の対立を創作的に織り込むなど、一般にタブー視されてきた大正~昭和初期の「皇室内の対立」について、切り込んでいます。「昭和史発掘」と同じく週刊文春の連載で、週刊誌の連載を執筆しながら82歳の生涯を閉じた点に、松本清張の物書きとしての気魄が感じられます。

 時代は軍人や超国家主義者や宗教家などが国家改造を目指した昭和維新の最中で、前年の1932年には血盟団事件が起き、井上準之助前蔵相や三井財閥を率いる団琢磨が暗殺され、その後、五・一五事件が起き、犬養毅首相が暗殺され、政党政治が終わりを迎えていた頃です。原稿を書きながら、みすず書房の『現代史資料』を毎週1巻ずつ読んでレジュメを書いていた院生時代のことを思い出し、新興宗教と近現代日本の関係について、改めて考えさせられました。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/993266/

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 所属学会(IAMCR International Association for Media and Communication Research)がすべての会員を対象に下のようなメンタル・ヘルスに関する調査をアナウンスしていて興味深かったです。LMU München(ミュンヘン大学)とAarhus University(オーフス大学)のチームが進めているサーベイで、調査対象はポスドク研究者だけではなく、すべての年齢のテニュア教員を含む「Faculty members and PhD students around the world」です。回答してみたところ、質問そのものは目新しいものではなく、臨床心理学で一般的な量的調査でしたが、複数の国際学会で実施しており、大規模なデータが出ると思うので、調査結果を参考にしたいと思います。

 国際的にはメディア研究は心理学と近いので、よいサポートだと思いました。考えてみれば、ほぼ毎年参加していたIAMCRで、相当な時間をコミュニケーションやネットワーキングに費やしていた訳で、「mental health issues, including anxiety, depression, and burnout」が生じているという記載も、理解できます。新型コロナ禍で、国際共同研究や役職等での手伝いも、ストレス軽減のため断らざるを得ず、こういう調査に至る状況はどの国も同じだと実感しました。

https://iamcr.org/news/mental-health-survey

Mapping the State of Mental Health of Media and Communication Scholars

Dear members of IAMCR,

Recent evidence on the state of mental health among academics suggests that we need to be concerned. Faculty members and PhD students around the world run a considerable risk of developing mental health issues, including anxiety, depression, and burnout, at some point in their career. The structural conditions of academic work, such as high publication pressure, fierce competition, and a culture of constant evaluation, may well contribute to the problem; and the pandemic has clearly intensified it.

As an association of scholars, IAMCR wants to take these concerns seriously. In order to identify adequate responses to the problem, however, we first need to get a sense of the scale of the problem in our field...

現代文学が描く新興宗教

 西日本新聞朝刊(2022年9月26日)に「現代文学が描く新興宗教」という表題でコラムを書きました。担当デスクが付けた表題は「薄れた壮大さ禍々しさ 人間臭く考えられるか」です。連載「松本清張はよみがえる」の『神々の乱心』の隣の掲載です。書き出しは下の通りで、高橋和巳の『邪宗門』(1966年)を新興宗教を描いた(広義の)現代文学の最高傑作として位置付けました。戦前・戦中の描写もさることながら、外地から引き揚げてきた信者たちが戦後に米軍と戦うという小説の企図に凄みがあり、おそらく、この作品を超える新興宗教ものの小説は出ないと思います。

 近年の作品では今村夏子の『星の子』、角田光代の『八月の蟬』、青来有一の『聖水』の3作品を注目作として挙げました。信仰と信迎の問題は、世俗的な問題≒文学的な問題として奥が深いテーマだと思います。


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現代文学が描く新興宗教

 新興宗教を描いた日本文学史上の名作として、真っ先に高橋和巳の「邪宗門」が思い浮かぶ。大本教を連想させる神道系の新興宗教団体「ひのもと救霊会」が、昭和初期に弾圧され、神殿をダイナマイトで爆破され、戦後には進駐軍と対立し、武装蜂起に至るプロセスを描いた壮大な偽史小説である。松本清張の絶筆「神々の乱心」も、昭和維新の時代を背景とした作品で、未完ながらシャーマニズムと宮中祭祀のルーツに迫る高いテーマ性を有している。この小説は大陸の阿片売買で蓄積した資金を元手に、満州で盗掘された「神器」を使った礼拝で勢力を拡大した新興宗教団体「月辰会研究所」が、戦前の宮中に接近していく内容で、松本清張の絶筆に相応しく「禍々しい作品」である。劉慈欣の「三体」も、中国の共産主義と科学崇拝を「新興宗教」に見立てた作品として高く評価できる。
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2022/09/21

吉田修一著『逃亡小説集』の解説を書きました

 吉田修一著『逃亡小説集』(角川文庫)に解説を寄稿しました。累計20万部超えの人気シリーズの第2作の待望の文庫化です。前作の映画版「楽園」でパンフレットに解説を寄稿しましたので、このシリーズにご縁があります。帯に名前を出して頂き、光栄です。

 下のカドブン(KADOKAWA文芸WEBマガジン)で私の解説を読むことができます。

https://kadobun.jp/reviews/bunko/entry-46808.html

 吉田さんのご実家の酒屋の前を通って長崎南高校に通っていましたので(特に帰り道)、こういう形でご一緒でき、心より感謝申し上げます。吉田酒店の裏手の階段道から見える長崎の市街地・港・稲佐山の風景は、長崎で最も好きな風景の一つです。『現代文学風土記』収録の西日本新聞の連載(2018年の第3回『最後の息子』)で、担当デスクと一緒に山の斜面を上がり、写真を撮り、掲載しました。

「逃げろミスター・ポストマン」の解説で言及しましたが、ビートルズ版で有名なPlease Mr. Postmanの雰囲気を、マーヴェレッツ版の原曲の艶っぽさで表現しているのが、『逃亡小説集』全体の良さだと思っています。収録された4作品の中でも「逃げろお嬢さん」(酒井法子の逃亡事件をモデル)が特に素晴らしく、前作『犯罪小説集』の「百家楽餓鬼(ばからがき)』(大王製紙事件をモデル)と合わせて、男女の「悪漢小説」として映画化を期待してしまいます。

 一般論として「逃亡」をポジティブに解釈すると、閉鎖的な場や陰湿な人間関係に悩まされている人たちは、その場や人間関係を変えようとするよりも、そこから「逃亡」する方が、心身面でのストレスが少なく、いい人生を歩むことが出来るように思います。

https://www.kadokawa.co.jp/product/322203001839/