2023/06/19

「松本清張はよみがえる」連載50回完結記念イベントの詳細記事が掲載されました

 西日本新聞朝刊(2023年6月19日)に「松本清張はよみがえる」連載50回完結記念イベントの詳細記事が掲載されました。表題は「時代超え何度でもよみがえる清張」です。諏訪部記者に上手く話をまとめて頂いています。盛況だったこともあり、改めて文化欄で大きく取り上げて頂けたようです。

 当日は「高度経済成長」が歴史になりつつある現代において、松本清張の作品を読み返す意義について、皆さまから「熱い反応」を頂きながら、楽しくお話しできました。当初の定員を大きく超える皆さまにご応募・お越し頂き、120通を超えるアンケートにご回答を頂きました。集計結果を拝読し、95.81%の皆さまに「満足」とご回答を頂き、感動いたしました。

 膝の怪我の療養中でしたが、清張愛あふれる、暖かいコメントを数多く頂き、今後の原稿執筆の励みになりました。連載の続編をという声も多数頂きましたので、先々、機会があれば、松本清張の「邪馬台国・九州説」を引き継ぎつつ、「松本清張はよみがえる 西日本編」を書きたいと考えています。現在は(来月の海外出張の準備をしつつ)連載の書籍化の作業に着手しています。

 7月18日(火)に恒例の西田藍さんとの直木賞予想対談が掲載される予定です。この対談連載で2回前に『女人入眼』で高評価だった永井紗耶子さんが、『木挽町のあだ討ち』(新潮社)で、見事、山本周五郎賞を獲得し、2度目の直木賞候補。受賞すれば史上3人目の直木賞・山本周五郎賞のW受賞者となります。古典芸能・文学の復興には、質の高い時代小説・歴史小説の流行が不可欠だと、個人的には考えていますが、近年、気鋭の中堅作家による時代・歴史小説の復興の兆しが感じられます。現在、精読中ですが、充実した候補作のライナップで、7月上旬の対談収録を楽しみにしています。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1099340/

*******
 次月のIAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)での「ジャーナリズムの収益化」に関する発表とも関連しますが、西日本新聞社は、DMP(Data Management Platform)を活用した事業や、同じ福岡に拠点を持つSoftbankとの関係の近さから、Yahoo!等での記事のオンライン配信、天神を拠点とした新しい地域事業に力を入れている新聞社です。ジャーナリズムの収益化という観点から、新しい試みを行っていますので、メディアラボの事業にも注目して頂ければ幸いです。

西日本新聞メディアラボDMP
*******
 西田藍さんとの直木賞予想対談の収録が終わりました。山本周五郎賞を獲得した永井紗耶子さんの『木挽町のあだ討ち』が、前回の『女人入眼』に続き、高評価。7月18日(火)の紙面に詳細が掲載されます。
 しばらくフランス滞在ですが、パリ・ナンテ―ルの暴動で思い出すのは、68年の5月危機とそれを描いたジャン=リュック・ゴダールの名作「万事快調 Tout va bien」です。昔、慶應の授業でサンディカリズムや新左翼運動とその限界について説明する時に、参照していました。ジャン・ボードリヤールがナンテ―ルで教えていて、郊外の住環境と暴動の関係について言及していましたが、今回の件は、郊外という概念よりも、マルセイユが象徴するフランスの(新しい)移民社会が抱える問題との関係が深いと思います。2019年にナンシー近辺を訪れた時に実感した、フランス内の重層的な格差問題が、新型コロナ禍で進行した印象を受けます。弱い立場に置かれたすべての人々に、心身の平穏が訪れることを願っています。
*******
 新型コロナ禍後の久ぶりのフランス滞在で、今のところ一番変化を実感したのは「eSIM」です。(街角の文字を自動翻訳してくれるGoole LenzやEx OrdoのConferenceアプリも良いですが、安定した4G回線は大事)。ベタにOrangeと契約してますが、日本でカード決済し、羽田でセッティングしておくと、ドゴール空港に着くとすぐに、現地回線に繋がるというのは便利。「数ミリのプラスチック(SIM)」のために、到着時の疲弊した時間を割かなくていいので助かります。15年ほど前にロシアの2G回線のローミングで5万円ほどの請求を受けた時に被った「SIMの呪い」から解放された思いがしています。

2023/06/04

福田和也著『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』書評/「日常を文化とする心」

 産経新聞朝刊(2023年6月4日)に福田和也著『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』(河出書房新社)の書評を寄稿しました。表題は「日常を文化とする心」です。3度救急搬送されながら、この本を書き上げた福田和也先生への敬意を込めました。

 文学とは人間の生き方に関わる学びである、という書き出しです。福田恆存の「伝統にたいする心構」を手掛かりに、蕎麦屋の下りを参照した福田先生とは異なって、文化とは生き方であり、狂気と異常から身を守る術だと述べている点に、着目しました。

 これは、文化を「欲望の抑圧の形態」だと考えたフロイトの思想に近く、また「アイデンティティ」という概念を世に広めた発達心理学者のエリク・エリクソンにも近い考え方です。エリクソンの影響から書かれた江藤淳の『成熟と喪失』についても、心理学的な文脈を踏まえて読むことが重要だと考えています。

 念のため、私は「政治的な立場の左右」の区別にあまり関心がありません。経済的な意味での「左右」もあれば、新しい技術の受容や移民の受け入れ、障がい者の包摂、コミュニティの維持のあり方、性的な多様性の受容、プロレスの好みなどに関する「左右」もあり、指標そのものが多様化・重層化しているという考えです。

 院生の頃、福田先生と一緒に読んだみすず書房の『現代史資料』に目を通すと、社会主義運動の初期から昭和維新後でも相応に「左右」の言説が多様だったことが理解できます。例えばゾルゲ事件の尾崎秀実など「左右」の矛盾を生きた人の手記を読むと、マルクス=レーニン主義とアジア主義の間で、その限界も含めて考えさせられることが多いです。

 個人的には「政治的に左」とされる方々よりも「左」の文献を読んでいると感じることが多く、また地方出身者なので、基本的に世帯年収の地域格差を括弧に入れた「小ブルジョア(マルクス)」的な議論が苦手です。

 このため「左右」のパッケージで思考したり、「何々主義・イズム」を掲げたり、そのレッテルを他人に貼ることに意味を感じられず、「様々なる意匠(小林秀雄)」や、「アイデンティティ(エリクソン)」が重層化した世界の複雑性を前提として、無意識的な言動も含めた人間の実存に迫る「文芸批評な思考(≒精神分析的な思考)」が大事だと、個人的には考えています。

 福田先生の著作ともそういう姿勢で向き合っています。福田先生の本について論じるのは、「文芸批評」の方法論上、工夫を要するので骨が折れますが、この本の原稿の連載中に、先生が3度倒れていることもあり、毎回、これで最後という気持ちで書いています。(今回の書評について、平山周吉さんからお褒めの言葉を頂けたので、ひと安心いたしました)

書評 日常を文化とする心 『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』福田和也著

産経新聞

https://www.sankei.com/article/20230604-UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU/

楽天infoseek

https://news.infoseek.co.jp/article/sankein__life_arts_UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU/

NTT docomo

https://topics.smt.docomo.ne.jp/amp/article/sankei/life/sankei-_life_arts_UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU

goo ニュース

https://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/sankei-_life_arts_UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU.html

livedoor

https://topics.smt.docomo.ne.jp/amp/article/sankei/life/sankei-_life_arts_UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU

Microsoft Start

https://www.msn.com/ja-jp/news/national

『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』書評

https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/945463/

*******

 IAMCR(国際メディアコミュニケーション学会)の発表の準備中ですが、今さらながら大幅な人数制限がされていることに気付きました。3000弱の投稿のうち、数百のinvitation only での開催というのは、新型コロナの影響なのか、暴動がしばしば起きているフランス社会の影響なのか、疑問に思いました。新型コロナ禍で、既存の研究ネットワークが薄い研究者(若手やメディアからの転職者など)のコミュニケーション機会を考えると、平時の数千人規模の開かれた場に戻した方が良かったと思います。

 円安で飛行機も宿もTGVのオンライン価格も高く感じましたが、久しぶりの海外出張で、フランスとその周辺の街の現実感を更新して、授業で学生に新鮮な海外イメージを届けたいと思います。

*******

 他学部の学生のメール質問に回答したら「この授業は、大学に入ってから受講してきたたくさんの授業の中で最も楽しく受講できており、大学での主体的な学びに取り組むきっかけになっている……」という返信が来て、感動しました。明治の学生は、こういうちょっとしたコミュニケーションが上手いと思います。期末レポートにも期待してます。

 来週はメディアに就職が内定した学生より、就職体験談を話してもらいます。学生からのリクエストに即した企画です。インターンや教員紹介による+αの活動に、積極的に取り組むことも大事だと思います。個人的には、教員の本を買って読み込み、質疑をする主体性が、シンプルに一番大事な気がします。

2023/05/30

『現代文学風土記』(西日本新聞社)が増刷されました

 『現代文学風土記』(西日本新聞社)の2刷(1200部)が2023年5月18日付で出来ました。2刷では、微修正の範囲ですが、初版から30ページほど修正しています。吉田修一さんに頂いた帯文はそのままです。乗代雄介さんに「新潮」(2022年8月号)の書評で言及頂いたように、「土地や風土以上に、時を隔てた人間同士を媒介するものもない」ので「未来、その時になんという名で括られているかわからない過去の『現代文学』の簡便なガイドブック」として、一人でも多くの方々に手に取って頂けると嬉しい限りです。

 ひと月ほど売り切れ状態でしたが、Amazonや楽天ブックスなどの在庫も復活しています。先日の「松本清張はよみがえる」イベントでも、15人ぐらいの方にご購入いただき、サインをいたしました。書籍の刊行はスモールビジネスですが、様々な場所の図書館で配架して頂いたり、この本の実績を踏まえて科研費を採択頂いたり、コミュニケーションの拡がりが実感でき、嬉しい限りです。翻訳も含めて先々の展開について検討しています。現在は『松本清張はよみがえる』の書籍化の準備に取りかかっています。

版元ドットコム(Amazon等へのリンク、試し読みページあり)

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784816710018

書評等の一覧など詳細情報

https://makotsky.blogspot.com/2022/04/blog-post_14.html

2023/05/25

「没後30年 松本清張はよみがえる」トークイベント

 2023年5月28日開催の「没後30年 松本清張はよみがえる」トークイベント@天神スカイホールにつきまして、200名を超えるご応募を頂きました。直前の告知でしたが多くの皆さまにご関心を頂き、ありがとうございます。好きな清張作品に関する事前アンケートを全文読みまして、松本清張の根強い人気と皆さまの清張愛を感じました。

 3時間のうち、前半は私的な長編・短編・映画のベスト5について紹介しつつ、松本清張の「生き方」が投影された、いくつかの作品の魅力や執筆背景についてお話します。過去の評論であまり注目されてこなかった「意外なベスト5」になると思います。西日本新聞社蔵の松本清張の写真も蔵出しして、ご紹介します。

 くらし文化部部長の司会で、後半は吉田ヂロウさんと担当記者の佐々木さんを交え、皆さまから頂いたアンケートの集計結果をもとに、代表作や現代文学との関係について映画版も含めて深掘りしていきます。また執筆・製作された時代・社会的な背景について、メディア史的な観点からもお話をします。全体を通して、高度経済成長期を代表する作家・松本清張の作品の記憶を伝承する意味と価値について、一緒に考えることができれば幸いです。



連載一覧「没後30年 松本清張はよみがえる」

https://www.nishinippon.co.jp/theme/matsumoto_seicho/

*******

 天神スカイホールにお越しいただいたみなさまありがとうございました。講演で、松本清張の「邪馬台国九州説」を踏まえつつ、『ペルセポリスから飛鳥へ』についてお話した折に、西九州新幹線の新駅に「邪馬台国」もしくは「佐賀・邪馬台国)」を、と述べましたが、翌日に吉野ケ里で「邪馬台国時代の石棺墓」の発見があり、驚きました。松本清張が一連の古代史本でこだわっていたのは、王権と関係の深い「璧」の出土ですが、魏の鏡が出たり、邪馬台国や卑弥呼に関わる副葬品が出るだけでも「九州説」は有力になるのではと思います。講演の速報記事は下記です。もう一記事ぐらい載るかも知れません。

松本清張の魅力語るイベント、福岡で開催 本紙連載終了に合わせ(2023年5月29日朝刊)

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1092823/

2023/05/17

「没後30年 松本清張はよみがえる」第50回「骨壺の風景」

  西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第50回(2023年5月17日)は、松本清張が幼少期から思春期まで最も身近な存在だった祖母=「ばばやん」について記した晩年の名短編「骨壺の風景」について論じています。担当デスクが付けた表題は「故郷の記憶をたどる 『鎮魂』の自伝的小説」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。本作と同様に、人間の生死を越えた「温度のない悲しみ」をとらえた車谷長吉の『赤目四十八瀧心中未遂』とのmatch-upです。

 松本清張は立志伝中の人です。貧しい家庭に生まれ育ち、尋常高等小学校を卒業後、給仕や画工の仕事を経て、40歳を超えてデビューし、時代を代表する作家となりました。清張の人生は、清張が記した小説の登場人物たち以上にドラマチックで、「文学的」です。清張が記した自伝小説の代表は1963年に記された『半生の記』ですが、これに次ぐ小説が、初期の自伝的名作「父系の指」と同じく「新潮」に掲載された本作です。

 本作は、戦前の小倉の下町の風景やそこで貧しい生活を送っていた人々の感情を「集合的記憶」として掬い取った、優れた「純文学作品」でもあります。

「私は、小さいときから他人のだれからも特別に可愛がられず、応援してくれる人もなかった。冷え冷えとした扱いを受け、見くだす眼の中でこれまで過ごしてきた。その環境は現在でもそれほど変わってないと思っている」という本作の一節は、松本清張が「人生の底」を生きる人々の「温度のない悲しみ」に寄り添い、失われた時の中で「ばばやん」の「骨壺の重さ」を感じることができる「不世出の叩き上げの作家」だったことを雄弁に物語っています。

「松本清張はよみがえる」は、今回の50回で完結です。松本清張の主要作を網羅した良いラインナップになりました。各作品の知名度の高さ、映像作品も含めた影響力の大きさに驚かされるばかりです。連載中は膝の手術もあり、再手術を終えたばかりですが、連載50回を書き切ることができて良かったです。

 5月28日(日)に福岡市の天神スカイホールで「没後30年 松本清張はよみがえる」に関連したイベントを開催します。詳細は「西日本新聞 文化班 Twitter」でご確認を頂ければ幸いです。5月17日の消印有効で、今朝の時点で120人ほどの方々からお申し込みを頂いているそうです。多くの皆さまにご関心を頂き、心より感謝申し上げます。松本清張が半生を過ごした九州北部で、彼が残した仕事を、現代的な視点からから楽しく振り返る会になれば幸いです。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1088952/


連載一覧「没後30年 松本清張はよみがえる」

2023/05/16

「没後30年 松本清張はよみがえる」第49回『ペルセポリスから飛鳥へ』

  西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第49回(2023年5月16日)は、『ペルセポリスから飛鳥へ』について論じています。担当デスクが付けた表題は「古代文化の源流探る 清張史観の『総決算』」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。日本の文明を東洋という枠組みを超えた多様なものとして、実地調査を基に考察した梅棹忠雄とのmatch-upです。

 1979年に刊行された「ペルセポリスから飛鳥へ」は、松本清張の古代史観の「総決算」と言える作品です。メソポタミア文明を継承するペルシャ帝国の文化と、日本の飛鳥文化や九州の古代遺跡の類似点に着目している点が大胆で、話題となりました。

 古墳時代の後期に建立された飛鳥寺の大仏は「日本最古の仏像」として知られますが、ユーラシア大陸に点在する大仏との類似点が指摘されています。また猿石や亀石など飛鳥に点在する石造物も、仏教の影響下で作られたものとは意匠が大きく異なります。

「中国の絹だけに限定されるイメージをもつシルクロードの名は早急に改めるべきであろう」と述べている通り、ペルシャと飛鳥の間には「拝火教の道=火の路」や「青銅器の道」、「薬草の道」などがあったと清張は考えています。

 冒頭で記した通り、松本清張が古代史ブームを先導した功績を称えて、西九州新幹線の新駅に「邪馬台国」という名称を採用してはどうでしょう(近畿でも採用してもいいのではないでしょうか)。邪馬台国九州説の是非はさておき、新鳥栖ー邪馬台国ー武雄温泉の旅は、非常に魅力的です。

 5月28日(日)に福岡市の天神スカイホールで「没後30年 松本清張はよみがえる」に関連したイベントを開催します。詳細は下の記事か「西日本新聞 文化班 Twitter」でご確認頂ければ幸いです。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1088605/


*******
 来月の書評の下準備で、久しぶりに福田恆存を読み返しているのですが、松本清張と歳が近いので、清張作品について考える上でも「時代の肌感覚」として参考になる批評文が多いです。「他者を否定しなければなりたたぬ自己とふようなものをぼくははじめから信じてゐない。ぼくたちの苦しまねばならぬのは自己を自己そのものとして存在せしめることでなければならぬ。この苦闘に思想が参与する」(「一匹と九十九匹と」)など。戦中派より年上の批評家らしい「醒めた人間観」が良いです。

2023/05/10

「没後30年 松本清張はよみがえる」第48回「疑惑」

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第48回(2023年5月10日)は、松本清張、晩年の名短編「疑惑」について論じています。担当デスクが付けた表題は「先入観に基づく冤罪 世論あおる報道批判」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。昭和33年に盛岡で起きた一家惨殺事件の再捜査に挑む刑事・吉敷竹史の姿を描いた島田荘司の『涙流れるままに』とのmatch-upです。

「疑惑」は1982年に「オール読物」誌上で発表され、同年に桃井かおり主演の映画版も公開されて、人気を博しました。鬼塚球磨子の国選弁護人は、原作では男性でしたが、映画版では女性へと変更され、「鬼畜」などの清張作品で名を高めてきた岩下志麻が演じています。

 本作は映画版(霧プロダクションの第二作)の質の高さも含めて、松本清張の短編の代表作の一つと言えます。原作を踏み込んで解釈した野村芳太郎の演出と、桃井かおりのアドリブについては書籍版で触れます。「張込み」や「ゼロの焦点」などの初期の名作からはじまった清張映画の一つの到達点と言えます。

あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション『疑惑』

https://www.youtube.com/watch?v=au_2_Y3M5ZQ

 本連載も残すところあと2回です。次回も次々回もミステリとは異なる系譜の「代表作」について論じ、連載を終えます。連載中は膝の手術もあり、今月も再手術がありますが、連載50回を書き切ることができて良かったです。

 5月28日(日)に福岡市の天神スカイホールで「没後30年 松本清張はよみがえる」に関連したイベントを開催します。

 13時スタートで、参加料千円。希望者は〒810-8721(住所不要)西日本新聞くらし文化部へ、はがきか、西日本新聞に掲載のQRコードから住所、氏名、参加人数、電話番号、好きな松本清張作品とその理由を書いて申し込んでくださいとのことです。5月15日締め切り(消印有効)とのことです。 
 松本清張の長編・短編・原作映画・ドラマの私的なベスト5について紹介しつつ、「清張山脈」の奥の深さを楽しく振り返る会になればと考えています。


*******
 今年40歳になるAaron Rodgersが、一年あたり70億円~80億円の4年の大型契約でGreen Bay PackersからNew York Jetsに移籍して注目を集めています。「リーグ全体を活性化する移籍」として、米メディアで高評価。JetsのGMとHCコンビと、オーナーのWoody Johnson(Johnson & Johnson一家、外交官)が、GBで燻っていたRodgersに、良い機会をセッティングしました。スケジュールも調整が入り、18試合中Monday Night Footballが2試合、Sunday Nightが2試合、Amazon PrimeのThursday Nightが1試合、Black Fridayが1試合というプライムタイム待遇。
 Aaron Rodgersのキャリアで印象に残るのは、下のTop 10 momentsでも#2に挙がっている「The Hail Mary King」で、試合最後のHail Mary(お祈りパス)の成功率の高さです。デザインされたプレーが崩れたあとの判断が上手く、ドラマチックな逆転試合が多いです。
 College Footballの文脈だと、Rodgersは、名門ながら低迷しているUniversity of CaliforniaのBerkeley出身で最も有名な選手と言えます。ライバルのUCLAとUSCが2024年からPac-12からBig-10にconferenceを変更するため、UCBもBig-10に移った方が良さそうですが、そうなるとStanfordやOregonもという話になりそうです。NCAAの制度改革で、大学生の数億円プレイヤーが普通に出ている状況なので、大学間の勝ち負けが極端化しそう(人気リーグの人気チームはチケットとグッズで稼ぎ、不人気リーグのチームは大学ごと停滞しそう。。)。
 下がアメリカのスタジアムの収容人数ランキングですが、上位はほとんど中西部と南部の大学で、日本の感覚からすると、大学が10万人規模のスタジアムを持っているのがすごいと思います。
 トップチームは観客が集まるため、HCは年に8億円ぐらいもらって、Alabama大やGeorgia大のように、どんどんいい選手を集めています。個人的には、ラストベルトのBig-10 conferenceが伝統校が多くて好みで、近年はMichigan大を応援しています。

2023/05/08

「没後30年 松本清張はよみがえる」第47回『黒い福音』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第47回(2023年5月8日)は、『黒い福音』について論じています。担当デスクが付けた表題は「未解決事件への怒り 戦後史の『悪』を凝縮」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。新興宗教の道場の窓から教祖の「念」によって転落死したとされる事件などを描いた、東野圭吾の『虚像の道化師 ガリレオ7』とのmatch-upです。

 1959年に東京都杉並区で英国海外航空(現・ブリティッシュ・エアウェイズ)の客室乗務員が殺害された「未解決事件」を題材としたミステリです。交際相手だったとされるカトリック系の「ドンボスコ修道院」のベルギー人神父が容疑者と目されました。当時の日本では、「スチュワーデス」は女性たちの憧れの仕事であり、敗戦による「コンプレックス」が容疑者への怒りに転化しやすい時代だったため、この事件は大きな注目を集めました。

 本作は「架空の教会の物語」として描かれたフィクションです。ただ警察の捜査や新聞社による報道が進展する中で、容疑者の神父が「持病の悪化」を理由として飛行機で国外に逃亡し、事件が迷宮入りした点など、現実と重なる部分が多いです。迫害の歴史を乗り越えてきたカトリック教会の「闇」が見え隠れする「きな臭い事件」を通して、戦後日本の暗部に迫った松本清張の代表作の一つと言えます。大映テレビ・TBSのドラマ版も良い演出でした。

 本連載もあと3回です。主要作品と映画化作品は、私的な評価の尺度(書籍版で詳しく書きます)に基づいてほぼ網羅してきました。今回の原稿の隣に、5月28日(日)13時~に福岡市の天神スカイホールで行う「没後30年 松本清張はよみがえる」のトークイベントの告知が出ています。九州北部と清張作品の関係について触れる話になると思います。私と担当記者とイラストの吉田ヂロウさん他。初稿を入れた後はイラストや表題など紙面作りはお任せだったので、私も聞きたいことがあります(笑)

 連載ではあまり触れられなかった映画版の清張作品の話(清張の映画観、脚本家の橋本忍、監督の野村芳太郎、霧プロダクションのことなど)にも触れることになると思います。清張作品の映画版に関するポイントについては、書籍版に加筆する予定です。

松本清張の魅力、酒井信さんらが語る 28日に福岡市でイベント

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1086268/

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1086266/

2023/05/03

「没後30年 松本清張はよみがえる」第46回「馬を売る女」

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第46回(2023年5月3日)は、日本経済新聞に連載され、日本経済がオイルショックで行き詰まり、鉄鋼業や造船業など「重厚長大」な産業が衰退していく「暗い時代」を背景にした「馬を売る女」について論じています。担当デスクが付けた表題は「競馬ブーム取り入れ 暗い世相を女に投影」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。競馬場の雰囲気とそれを愛する人々との思い出を活写した高橋源一郎の『競馬漂流記』とのmatch-upです。

 日本の繊維産業は、明治初期から絹織物を中心として「近代化」を担い、戦後も合成繊維の生産を中心として「復興」の中核を担ってきましたが、この作品が書かれた時期は、衰退期に足を踏み入れていました。花江はこのような「繊維産業の不況」を体現した存在と言えます。彼女は日東商会から給料をもらうだけでは満足せず、その社員に月7%の利息で金を貸して蓄財し、馬主を務める社長の電話を盗聴して「競争馬の極秘情報」を入手し、それを転売して副収入を得ています。82年の大映テレビ・TBSドラマ版の風吹ジュンの演技が、味わい深いです。

「馬を売る女」の初出の77年は、地方競馬から中央競馬に勝ち上がったハイセイコーが「国民的な人気」を博し、競馬の娯楽としての知名度を高めて間もない時期でした。大衆の欲望の流れに敏感な松本清張は、小説の題材として「競馬ブーム」を取り入れたかったのだと思います。
 
 本連載もあと少しです。50回まで入稿済ですが、松本清張の作品をバランス良く網羅した50本のラインナップになったと感じています。50回に近付いても代表作が残る「清張山脈」の奥深さが良いです。

 5月28日(日)に福岡市の天神スカイホールで「没後30年 松本清張はよみがえる」に関連したイベントを開催します。九州北部と清張作品の関係について触れる話になると思います。私と担当記者とイラストの吉田ヂロウさん他。
 13時スタートで、参加料千円。希望者は〒810-8721(住所不要)西日本新聞くらし文化部へ、はがきか、後日、西日本新聞に掲載のQRコードから住所、氏名、参加人数、電話番号、好きな松本清張作品とその理由を書いて申し込んでくださいとのことです。5月15日締め切り(消印有効)とのことです。 
 九州北部にお住いの方々と、松本清張の没後30年を一つの機会として、清張作品の魅力と記憶を、類似したテーマを扱う日本の現代小説の魅力と共に、楽しみながら継承することができる会になれば嬉しいです。

 それと『現代文学風土記』(西日本新聞社)は現在、Amazonや楽天ブックスなどで品切れ中ですが、2刷があと一週間ほどで発行されますので、値段が高めの中古本よりも、正規の値段(1800円+税)で新品をお買い求めを頂ければ幸いです。

2023/05/01

「没後30年 松本清張はよみがえる」第45回『Dの複合』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第45回(2023年5月1日)は、浦島伝説や羽衣伝説を下地にした松本清張らしい「古代史の教養」が生きた小説で、『点と線』に連なる「旅行ミステリ」の集大成と言える『Dの複合』について論じています。担当デスクが付けた表題は「民族説話と現代結ぶ 雄大な旅行ミステリ」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。奈良県の天川村や、新疆ウイグル自治区などを舞台にして、キトラ古墳に描かれた天文図の謎に迫った池澤夏樹の『キトラ・ボックス』とのmatch-upです。

『Dの複合』という印象的なタイトルは、日本列島を横断する北緯35度線と、東経135度線の英語表記に「D」が多く使われていることから採ったもので、この作品は北緯35度線と東経135度線の上で起きるきな臭い事件の数々を描いています。個人的に好きな作品の一つです。

 小説家・伊瀬の描写は、デビューして間もない頃の松本清張の姿に酷似しています。「ここのところ原稿の依頼が途絶えて、げんに女房が浜中にいろいろサービスしているのでもわかるとおり、家計が苦しくなっている」など、「売れっ子」になる前の描写が面白いです。全国各地の伝承を取材し、連載小説を記していく作家の姿を描いた「メタ・フィクション」で、「浦島伝説」「羽衣伝説」「補陀洛(ふだらく)伝説」の三つを下地にして、「戦前の謎めいた事件」が「戦後」に与えた「余波」に迫ります。

 5月28日(日)に福岡市の天神スカイホールで「没後30年 松本清張はよみがえる」に関連したイベントを開催します。私と担当記者とイラストの吉田ヂロウさん他。13時スタートで、参加料千円。希望者は〒810-8721(住所不要)西日本新聞くらし文化部へ、はがきか、後日、西日本新聞に掲載のQRコードから住所、氏名、参加人数、電話番号、好きな松本清張作品とその理由を書いて申し込んでくださいとのことです。5月15日締め切り(消印有効)で定員150人とのことです。日々、松本清張とその作品のことばかりを考えて連載を記してきましたので、総まとめという感じの話になると思います。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1084665/

*******

 NFLのドラフトは順当にアラバマ大学のBryce Young君が1巡1位の指名でした。5-10でプロとしては小柄ですが、空間認識力が高く、個人的に好きなDrew BreesやKart WarnerタイプのQBです。1巡だと日本円で年間10億円を超える契約×5年ぐらいを得られるわけですが、アメリカはcollege footballが人気なので、大学3年生の時点で年に4億円超もらっていたという。派手な「正装」や「個性的な親族」も映るので、各選手の様々な背景が垣間見えるのが面白いところです。大学生が脚光を浴びる「世界最大のメディア・イベント」と言えます。

https://www.youtube.com/watch?v=h9MLpDppGhU

 ドラフト直前に「歴史的な移籍」でAaron Rodgersを獲得したNYJetsファンが盛り上がっていましたが(緑のCheese Headを被ったおじさんが会場にいて笑いましたが)、Make a Wish Foundation枠のKyle君(難病のbone cancerと闘病中。55年もSuper Bowlに出ていないJetsを32チームから選択)のプレゼンも良かったです。様々な背景を持つ子供たちをファン文化と地域で包摂し、応援していくNFLらしい取り組みだと思います。