西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第146回 2021年2月21日)は、森絵都の直木賞受賞作『風に舞いあがるビニールシート』を取り上げています。表題は「人生の転機捉えた短編集」です。
本作には、不器用に自己の人生と格闘する登場人物たちを描いた6つの短編が収録されています。「守護神」は、社会人学生が多く通う夜間の「第二文学部」を舞台に「レポートの代筆」を題材とした物語です。森絵都は日本児童教育専門学校を卒業後、アニメーションのシナリオ制作に関わり、早稲田大学第二文学部に社会人入学した経歴があり、この作品には著者の経験が反映されているのだと思います。
表題作「風に舞いあがるビニールシート」は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の東京事務所で働くテキサス出身の男性・エドと、外資の投資銀行から転職してきた日本人女性・里佳の恋愛を描いた作品です。エドは、スーダンやリベリア、ジブチなど内戦や紛争が起きる「フィールド」で難民保護の任務に従事した経歴を持ち、「人の命も、尊厳も、ささやかな幸福も、ビニールシートみたいに簡単に舞いあがり、もみくしゃになって飛ばされていくところ」を、数多く目撃してきました。暴力的な風が吹いた時、真っ先に飛ばされる弱い立場の人々を、地上へと引きとどめようと試みる優しい人間が抱える寂しさと強さを描いた作品です。
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森絵都『風に舞いあがるビニールシート』あらすじ
才能に恵まれた洋菓子職人・ヒロミに振り回される主人公・弥生を描いた「器を探して」。捨て犬の世話をするボランティアのためにスナックで働く主婦・恵利子を描いた「犬の散歩」。仏像修復を行う工房で働く人々の出会いと別れを描いた「鐘の音」など、不器用ながら懸命に働く大人たちを描いた短編集。第135回直木賞受賞作。