2022/11/10

「没後30年 松本清張はよみがえる」第21回『霧の旗』

  西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第21回(2022年11月10日)は、倍賞千恵子主演・山田洋二監督の映画版で広く知られる『霧の旗』について論じています(山口百恵・三浦友和版も有名です)。担当デスクが付けた表題は「兄思いか、逆恨みか 怨念に満ちた復讐劇」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。『勝手にふるえてろ』などの作品で、両極端な感情を持て余す女性を描いた綿矢りささんとのmatch-upです。

映画 霧の旗【予告編】 1977年版

https://www.youtube.com/watch?v=zo9CXFqdFmM

 松本清張の作品には、負けん気が強く、男性を執念深く追い駆ける「個性的な女性」が数多く登場します。周囲の男たちを振り回し、血生臭い事件に巻き込むことを厭わない女性も少なくなく、読後に恐怖を覚えます。地方出身の女性の視点を通して、金の有無で裁判の有利・不利が決まる司法制度に疑問を投げかけた「社会派小説」とも言えます。

 本作は20歳の柳田桐子が、高利貸しの老婆を殺害した容疑で逮捕された兄を救うために、著名な人権派弁護士・大塚欽三を訪ねる場面からはじまります。金貸しの老婆を殺害した若者を描いたドストエフスキーの『罪と罰』を想起させる出だしで、この小説では兄の仇を討つために、貧しいながらも様々な手段を講じる妹が主人公です。大塚はそれなりに桐子の相談に乗りますが、桐子にとって大塚は、「情」ではなく「金」で動く「都会の人間の代表」として、憎悪の対象になってしまいます。

 原作のラストはシュールな終わり方なので、再度映画やドラマにする場合は、桐子の回復と成長の過程も描かれるといいかも知れません。

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 Journal of Human Security Studies. Vol.11, No.2, 2022.に、A Diachronic Analysis of The Content And Geospatial Distribution of News Reports of Reputational Damage Related to The Great East Japan Earthquake and Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Disasterという論文を寄稿しました。共同利用・共同研究拠点 (Joint Usage / Research Center)で実施しているニュースの解析と分析のプロジェクトの成果です。JAPAN ASSOCIATION FOR HUMAN SECURITY STUDIESは、英語で開催されている日本の学会で、海外出身の教員や留学生に限らず、英語話者の日本の教員も含め、国際系の学会らしいオープンな雰囲気で、活発な議論が行われています。掲載にあたり、英文で詳細な査読&ご助言を頂いた先生方に心より感謝申し上げます。

https://www.jahss-web.org/single-post/journal-of-human-security-studies-vol-11-no-2-2022