2022/11/23

「没後30年 松本清張はよみがえる」第24回『わるいやつら』

  西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第24回(2022年11月23日)は、映画版でも広く知られる『わるいやつら』について論じています。担当デスクが付けた表題は「悪漢医師の転落人生 特権階級の暗部暴く」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。臓器移植ビジネスの暗部を描いた直木賞受賞作『テスカトリポカ』を記した佐藤究さんとのmatch-upです。

 悪漢小説は、大航海時代に経済的・文化的に大きな繁栄を遂げた16世紀のスペインにルーツを持ちます。恵まれない出自の主人公が悪知恵を働かせて、世の中を渡り歩く姿を、皮肉交じりに描くことが多く、身分や資産などの「格差」が生み出す「嫉妬」や「怨嗟」の感情を通して、社会の底から「時代の影」を浮き彫りにしていきます。「わるいやつら」は男女の別を問わず、様々な悪人が登場する「悪漢小説」で、病院の院長という「特権階級」の暗部を描いた作品です。1963年から「サンデー毎日」に連載された山崎豊子の「白い巨塔」よりも3年早く発表されました。

 本作は、金策に窮した性格の悪い医者・戸谷が、「悪漢」たちを周囲に呼び込み、詐欺や殺人に手を染め、しっぺ返しを受ける物語です。「週刊新潮」に1960年1月から1年半ほど連載された作品で、同時期に「日本の黒い霧」が「文藝春秋」に連載されています。戦後史の闇を暴いた「日本の黒い霧」とは異なって、本作では病院の経営に行き詰った戸谷が殺人に手を染める「堕落した姿」が描かれます。800坪の敷地を持つ医院の跡取りとして生れながら、医者らしい仕事をせず、資産をむしり取られていく戸谷の姿に、清張の「良家の子弟」に対する恨みが感じられます。

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