西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第22回(2022年11月14日)は、映画版でも広く知られる『砂の器』について論じています。担当デスクが付けた表題は「感情の「訛り」すくい 泥くさい実存に迫る」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。『怒り』などの作品で、地縁や血縁の「しがらみ」の中で、人々が「怒り」や「怨嗟」の感情を抱き、些細なきっかけで一線を越え、人生の選択肢を狭めていく姿を描いた吉田修一さんとのmatch-upです。
吉田修一さんの『逃亡小説集』の文庫解説については、先月、KADOKAWA文芸WEBマガジン「カドブン」に転載を頂きました。
https://kadobun.jp/reviews/bunko/entry-46808.html
平成不況と令和のコロナ禍を通して、都市と地方の格差や出自や教育の格差が拡がってきました。オンラインの世界では、人々の「怒り」や「怨嗟」、「嫉妬」の感情が吹き荒れ、週刊誌を開けば、「清張的な事件」が現代日本でも数多く報じられていることが分かります。
この作品は全国各地の風土や訛りを題材にすることの多い松本清張らしい長編小説です。方言が飛び地で分布することに着目し、松本清張の父親の実家に近い島根県の亀嵩(奥出雲町)や、秋田県の羽後亀田(由利本荘市)など幅広い土地を舞台に、連続殺人事件の謎がひも解かれます。「出雲の音韻が東北方言のものに類似していることは古来有名である」と得意気に記す筆致に、清張の自己のルーツへの愛情が感じられます。
様々な登場人物たちが物語を牽引するのも本作の魅力と言えます。ハンセン病を患った父親と引き離され、育児放棄された形で放浪生活を送る子供や、石原慎太郎や大江健三郎、永六輔や寺山修司などがメンバーとなった「若い日本の会」を彷彿とさせる「ヌーボーグループ」が重要な役割を果たすのも、1961年に刊行された小説らしいです。このグループで殺人事件に深く関わるのが、小説家ではない点に、松本清張の「好み」が感じられます。
映画『砂の器』予告編 *予告編でここまで真犯人が誰だか良く分かる映画も珍しいです
https://www.youtube.com/watch?v=hw-T21u51vE
西日本新聞me