西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第25回(2022年11月24日)は、大ヒット作『点と線』の続編『時間の習俗』について論じています。担当デスクが付けた表題は「土地に根差す仕掛け 福岡の歴史の奥深さ」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。福岡市の櫛田神社の神事・祇園山笠を描いたを描いた辻仁成さんとのmatch-upです。
和布刈神社の神事を撮影した「フィルムの巻き戻し・トリック」や、西鉄の定期券を使った「身分証明の偽装・トリック」など、福岡の土地に根差した仕掛けが目を引く作品です。松本清張は人々の生活に身近なものを小道具として、推理小説を組み立てるのが上手いと思います。和布刈神社は西暦200年に神功皇后が創建したとされる由緒ある神社で、室町幕府を支えた守護大名・大内義弘が社殿を建造したことで知られます。陰暦の元旦未明に境内で大焚火が行われ、神楽が奏でられる中を、三人の禰宜が松明と鎌と桶を持ってワカメを刈り取り、神前に供える神事が行われます。
日本で食用とされるワカメが、牡蠣やホタテ、ムール貝などの成長を妨げる外来種として、多くの国々で忌み嫌われていることを考えれば、ワカメを刈り、神に捧げる和布刈神事は日本的な伝統行事と言えます。大ヒット作の続編に「原風景」といえる土地の神事を織り込んでいる点に、松本清張らしい「郷土愛」が感じられる作品です。
今回の原稿で連載予定50回の半分まで到達しました。多くの方々よりご関心を頂き、平均すると3日に一度のペースでご掲載を頂きました。「清張山脈」と呼ばれる膨大な作品群に、これまでの文筆の経験を総動員しながら、気力で登っているという実感です。作家論というよりは、松本清張が生きた時代を対象とした、大衆社会論・戦後日本論というコンセプトです。ルカーチやブルデューが展開した文芸社会学(日本だと文化社会学)を、戦後日本の文脈で復興したいという思いもあります。日々、黙々と読み書きに時間を費やしながら、ゲラをチェックしています。まだまだ優れた清張作品が数多く残されていますので、後半の原稿にもご関心を頂ければ幸いです。次回は12月1日の掲載予定です。
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