2022/11/24

「没後30年 松本清張はよみがえる」第25回『時間の習俗』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第25回(2022年11月24日)は、大ヒット作『点と線』の続編『時間の習俗』について論じています。担当デスクが付けた表題は「土地に根差す仕掛け 福岡の歴史の奥深さ」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。福岡市の櫛田神社の神事・祇園山笠を描いたを描いた辻仁成さんとのmatch-upです。

 和布刈神社の神事を撮影した「フィルムの巻き戻し・トリック」や、西鉄の定期券を使った「身分証明の偽装・トリック」など、福岡の土地に根差した仕掛けが目を引く作品です。松本清張は人々の生活に身近なものを小道具として、推理小説を組み立てるのが上手いと思います。和布刈神社は西暦200年に神功皇后が創建したとされる由緒ある神社で、室町幕府を支えた守護大名・大内義弘が社殿を建造したことで知られます。陰暦の元旦未明に境内で大焚火が行われ、神楽が奏でられる中を、三人の禰宜が松明と鎌と桶を持ってワカメを刈り取り、神前に供える神事が行われます。

 日本で食用とされるワカメが、牡蠣やホタテ、ムール貝などの成長を妨げる外来種として、多くの国々で忌み嫌われていることを考えれば、ワカメを刈り、神に捧げる和布刈神事は日本的な伝統行事と言えます。大ヒット作の続編に「原風景」といえる土地の神事を織り込んでいる点に、松本清張らしい「郷土愛」が感じられる作品です。

 今回の原稿で連載予定50回の半分まで到達しました。多くの方々よりご関心を頂き、平均すると3日に一度のペースでご掲載を頂きました。「清張山脈」と呼ばれる膨大な作品群に、これまでの文筆の経験を総動員しながら、気力で登っているという実感です。作家論というよりは、松本清張が生きた時代を対象とした、大衆社会論・戦後日本論というコンセプトです。ルカーチやブルデューが展開した文芸社会学(日本だと文化社会学)を、戦後日本の文脈で復興したいという思いもあります。日々、黙々と読み書きに時間を費やしながら、ゲラをチェックしています。まだまだ優れた清張作品が数多く残されていますので、後半の原稿にもご関心を頂ければ幸いです。次回は12月1日の掲載予定です。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1018871/

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 今月は、査読付き英字論文(19ページ)も掲載され、新聞連載や文芸批評以外でも成果を出せて、ひと安心でした。英字ニュースの解析と分析に関する研究成果として、近年は年一のペースで査読付き論文を書いてますが、毎年、大学から外国語学術論文校閲料助成をもらって、英字論文を出すのが理想です。最近はIAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)に参加できていないので、次年度以後は、大規模な国際学会での発表にも、徐々に復帰したいと考えています。
 先週は文学部の先生にお誘いを頂き、他大学の知人も多く参加していた研究会に出て、京都学派の系譜を継ぐ、加藤秀俊先生のお話を伺えたのもよいご縁でした。京都学派の特徴は、学際的な好奇心と学問の多様性にあったというお話で、特に秀俊先生と小松左京や梅棹忠雄の思い出話が味わい深かったです。